【特集2】CCSの社会実装へ大きな一歩 官民一体で事業性実証目指す

2024年9月3日

多様な業種を巻き込み動き出したCO2の貯留事業。脱炭素社会を視野に主導するJOGMECの戦略に迫った。

【インタビュー】北村龍太/エネルギー・金属鉱物資源機構「JOGMEC」エネルギー事業本部CCS事業部長

─CO2を回収して地下に貯留する技術「CCS」がカーボンニュートラル社会づくりで果たす役割について教えてください。

北村 発電分野では、化石燃料から脱炭素化につながるクリーン燃料への転換を進めることでCO2排出量を減らしていく過程で、「つなぎ」の役割を果たすのがCCSです。その転換期には、化石燃料を燃焼して取り出すブルー水素やそれに窒素を合成してつくるブルーアンモニアが発電で必要となりますが、いずれ再エネ由来に置き換わるでしょう。そうなると発電向けCCSの位置付けも変わります。ただ、鉄鋼や化学などエネルギー集約型産業の脱炭素化は難しく、非発電分野向けCCSは将来も使われ続けると見ています。

─日本が脱炭素化に貢献するためには、どの程度のCO2貯留量が必要ですか。

北村 2050年時点で年間約1.2億~2.4億tのCO2貯留が必要という推計があります。それを達成するためには、50年までの20年間、CCS事業を毎年立ち上げ、約600万~1,200万tずつ年間貯留量を増やさなければなりません。そこで政府は環境整備を進め、30年以降にCCS事業を本格展開することを目指しています。JOGMECは政府と緊密に連携し、そうした取り組みを支援します。

─政府の「CCS長期ロードマップ」に沿って力を入れている取り組みは何ですか。

北村 横展開可能なビジネスモデルで規範となる先進プロジェクトを支援する「先進的CCS事業」です。23年度に始めたもので、初年度に7案件を選定しました。24年度も発電や石油精製、化学、鉄鋼など多業種の事業者が参画するプロジェクトとして、9案件を選びました。5月には、CO2を埋める地層の試掘や貯留の許可制度を盛り込んだ「CCS事業法」が成立しており、事業化に向けて大きな一歩を踏み出したと言えます。

─事業化に向けた課題も抱えています。

北村 CCSの実施地域に与える影響を踏まえて、住民理解を得ることが大切です。貯留の適地である枯渇した石油・ガス田は国内では量的に限られることも課題で、日本で回収したCO2を海外に輸送し貯留する手法が解決策となります。今年度の先進的CCS事業の対象案件のうち4案件は海外貯留でした。法制度が進むCO2受け入れ国も限られる中、世界で環境整備や政府間協議が進むことを望んでいます。先進的CCS事業には、地下水で満たされた地層「帯水層」をCO2の大規模貯留に向く貯留先として役立てる調査も含まれており、今後の展開に期待しています。

きたむら・りゅうた 東京大学工学部卒業後、1995年石油資源開発入社。2007年JOGMEC入構。シドニー事務所勤務などを経て、24年から現職。