脱炭素事業の先行5社が集結 新潟発の多彩なプロジェクトを紹介

2024年10月6日

【新潟県】

多様な産業が拠点を構える新潟県で、カーボンニュートラル推進に向けたシンポジウムが開かれた。

地の利を生かした多彩なプロジェクトを紹介するとともに、今後の課題や展望を議論した。

新潟県内で、カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けた多彩なプロジェクトが着々と進んでいる。それを広く認知させる舞台となったのが、県主催で8月29日に朱鷺メッセ(新潟市中央区)の国際会議室で開かれた「新潟カーボンニュートラル推進シンポジウム」だ。

シンポジウムに参加した県内の電力・ガスや化学産業などの5社は、発電所や工場などから排出されたCO2を回収・貯留し再利用する技術「CCUS」の活用を国全体に促すとともに、水素やアンモニアといった脱炭素燃料の供給体制を整備する方向性を共有。日本のCN社会づくりを後押しすることに意欲を示した。

産学官の関係者が登壇したシンポ
会場では活発な意見が繰り広げられた


供給網を着実に構築 産業集積の進展に期待

「本県でのCNの取り組みが、関係者を巻き込みながら大きく進展していくきっかけになることを期待したい」―。冒頭あいさつで登壇した花角英世知事は、エネルギー拠点が県内に集積する強みに触れた上で、オンライン参加者を含めた約350人の聴衆を前にこう力を込めた。

官民連携でCN実現を目指す「新潟カーボンニュートラル拠点化・水素利活用促進協議会」の座長を務める東京工業大学の岡崎健名誉教授は、「新潟の先進性と日本を牽引する新産業創造の期待」をテーマに基調講演。岡崎氏は、GX(グリーントランスフォーメーション)投資を県内で実施・検討しているファーストムーバー(先行者)に注目し、「有力なプレーヤーが有機的に連携してCNのサプライチェーンを構築することが重要だ」とした上で、先行事例を機に企業や技術の誘致が進む流れに期待感を示した。

経済産業省GXグループの中原廣道環境政策課長は、2040年を見据えて脱炭素や産業政策の方向性を示す国家戦略「GX2040ビジョン」に触れ、検討を加速する姿勢を強調した。

パネル講演に登壇したのは、東北電力、石油資源開発(JAPEX)、三菱ガス化学、INPEX、JX石油開発。東新潟火力、新潟火力という東北電力の県内二つの発電所長を務める清野幸典執行役員は、「CN燃料に置き換える」「化石燃料の使用を減らす」「CO2を回収する」―という三つのアプローチから火力発電の脱炭素化を追求する方針について説明した。同社は23年10月、新潟火力において、燃焼時にCO2を排出しないCN燃料の活用に向け、事業用コンバインドサイクル発電設備として国内初となる水素混焼試験を行い、少量の水素を既存燃料の天然ガスに混合しても問題なく発電できることを確認した。「脱炭素化に向けた技術開発に加えて、サプライチェーンの構築にも積極的に関わっていきたい」(清野氏)考えだ。

JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)が政府と連携して進める「先進的CCS(CO2の回収・貯留)事業」の候補として選定された「東新潟地域」のCCSプロジェクトも取り上げられた。同プロジェクトに参画するのは、東北電力やJAPEX、三菱ガス化学など。年間140万tというCO2の貯留規模で、30年までの事業化を狙う。

JAPEXの池野友徳常務執行役員は、「CNの背骨となるCCSを基盤に、CO2排出量が少ない電源やCO2を資源として有効利用する企業が現れ、その地で産業集積が進んでいく流れを作りたい」と、地域への波及効果を高める一翼を担う決意を表明した。


先行モデルを国内・世界へ CCSを収益事業に育成

新潟で約60年にわたり原油や天然ガスの探鉱開発に携わってきた三菱ガス化学も、先行的にCNに取り組む一社。橋本晃男執行役員は、大気へ放出されるCO2や廃プラスチック、バイオマスをメタノールに変換し、化学品や燃料・発電向けにリサイクルするサービス「Carbopath(カーボパス)」などを披露した上で、「化学メーカーの強みを生かし、地球環境にポジティブなインパクトをもたらす変革者になりたい」と意気込みを述べた。

エネルギー供給基地としての役割を担う新潟東港

60年以上にわたり新潟で石油ガス事業を推進してきたINPEXも、県内で多様な計画を推進中だ。中でも柏崎市では、低炭素の水素やアンモニアの製造から利用まで一貫して実証するプロジェクトが動いている。同社が操業する南長岡ガス田からの天然ガスを原料として活用し、25年3月にプラントの試運転を始める予定だ。加賀野井彰一執行役員は、「蓄積したアセットを組み合わせて新潟県で実現できる脱炭素の姿を見せ、日本そして世界へ展開したい」と力を込めた。

ENEOSホールディングス傘下のJX石油開発は、石油・天然ガス開発を基盤にCCSを中心とした環境対応型事業を育てる「二軸経営」を推進している。CCSは30年代を確立期と位置付け、40年代には事業として拡大。さらに50年代には年間5000万t規模のCO2地下貯留量を実現するというロードマップを描く。胎内市の中条油業所周辺では、近隣で調達した木質バイオマスを原料に、ガス化技術とCCSを組み合わせて水素を製造・輸送・活用する一貫プロセスの確立を視野に入れている。「CCSを収益に貢献する中心事業に育てたい」と、吉良仁秀・取締役常務執行役員。

新潟の地で、脱炭素化で先行する5社の挑戦の舞台が広がりそうだ。

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