【電源開発 菅野社長】事業者間で競争し合いトップランナーとして脱炭素の実装に貢献へ
中期経営計画で火力トランジションの方向性を示した。
多様な技術実装を図る中、トップランナーを自負する
IGCC+CCS分野でコスト抑制に向けた競争に挑む。
洋上風力開発など再エネ投資も加速させつつ、
大間原発は地元の期待を背に2030年度運転開始への対応を進める。
【インタビュー:菅野 等/電源開発社長】
志賀 10月1日、石破政権が誕生しました。電源開発にとってどのような影響がありますか。
菅野 総裁選に立候補した9人のどなたがなられてもエネルギー政策の流れは大きく変わらないと思っていました。その上で、再生可能エネルギーと原子力のバランスの問題、あるいは核燃料サイクルへの力の入れ方など、新政権の重点の置き方を注視していく必要があります。
志賀 前岸田政権は、エネルギー政策では安定供給重視の姿勢を鮮明にしました。
菅野 おっしゃる通りで、特に原子力についてはかなり進展したと思います。カーボンニュートラル(CN)のために必要な電源と位置付け、40年超の運転期間の問題についても具体策を示し、さらに福島の処理水の海洋放出も実施しました。これからCNに向けた社会実装の時期に入りますので、引き続きリアリティーのあるエネルギー政策が必要だと思います。
火力の方向性鮮明化 IGCC+CCSが有望
志賀 社長に就任されて1年強。この間、最もエポックメーキングな発表が、中期経営計画の中で国内火力のトランジションの方向性を示したことでしょう。
菅野 1年かけて議論してきました。これから地元の方々へ説明し、ご理解を求めていきます。
志賀 Jパワーの個性が表れていますね。例えば磯子火力は水素、橘湾はアンモニア利用へ。松島2号機と石川石炭はIGCC(石炭ガス化複合発電)とCCS(CO2回収・貯留)の組み合わせ、といった方針ですが、それぞれの意図は?
菅野 高砂火力、そして松島の1号機は廃止します。全体の設備容量は縮小していくことを前提に、サイトの特徴を生かしてトランジションを図る考えです。例えば、アンモニアを利用する場合は大量のアンモニアを使用することになります。アンモニアは劇物です。管理を徹底する上で居住地との離隔距離が課題となるため、橘湾など面積に余裕のある地点でアンモニア利用を進めます。
一方、磯子は横浜市内のコンビナートで、非常に手狭な土地。ここでのアンモニア利用は難しい一方、磯子周辺の自治体が水素供給インフラの整備に意欲を示していることから、水素の活用を目指します。
志賀 アンモニアの調達面はどう想定していますか。
菅野 アンモニアはサプライチェーンの構築が最大の課題で、必要な量を安定的に確保できるのか、コストはどの程度か、といった点が重要になります。橘湾は四国電力との共同立地であることからコストを抑えるため共同調達という方法も考えられます。他社でのアンモニア基地化の動きも注目しています。こうした動向を踏まえつつ、さまざまな協働の形を検討しています。
志賀 ところで、水素と石炭火力の相性は良いのですか。
菅野 輸入した石炭をガス化すると、水素と一酸化炭素(CO)を多く含む混合ガスになります。これを水とシフト反応させ、CO2を分離回収することで水素を取り出すことができます。当社では、石炭火力をIGCC化し、さらにCO2を分離回収し日本近海に貯留(CCS)することで、CO2フリー発電を目指します。 現状では海外で石炭から水素を生産し水素自体を大量輸入するよりも、化石燃料のまま輸送して日本で水素を生産する方式のフィージビリティーが高いと思っています。また、CO2分離回収という面においても、IGCC+CCSはCO2濃度を高めて回収することになるので、空気中からCO2を直接回収するDAC(直接空気回収技術)よりも効率的と言えます。