【電源開発 菅野社長】事業者間で競争し合いトップランナーとして脱炭素の実装に貢献へ
コスト抑制に努力 社会も一定水準許容を
菅野 政府は、当面はグレー水素の利用も認める方針ですが、最終的にはブルー水素にする必要があります。CCSのコストも込みで考えないと、意味がありません。われわれは豪州でブルー水素を生産する場合の試算なども行った上で、先述の方式がベターだと考えています。
志賀 大崎クールジェン(広島県大崎上島町)のように燃料電池を組み合わせたIGFCという展開はないのでしょうか。
菅野 大崎クールジェンでは22年度までIGFCの実証に取り組みました。ただ、商用化に向けた燃料電池の大型化に関してまだ少しハードルが高く、まずはIGCCにCCSを付けることを検討します。CCSは九州西部沖で海底調査をすべく、漁業関係者の理解を得るための対応を進めています。来年には試掘までいきたいと思ってます。
志賀 直感的に、今の電気料金水準を踏まえ、どの程度まで社会が脱炭素のためのコストを受け入れると思いますか。
菅野 今の発電コストに託送料金が乗り20円程度として、その1・5倍程度は許容される必要があるでしょう。ロシア・ウクライナ戦争が起きた後、2年前の秋には30円超の水準となりました。この程度を許容できないと、どの電源も脱炭素にはたどり着けないと考えています。
発電事業者は、水素、アンモニア、IGCCやCCSなど、お互いの技術でコストを下げる努力・競争をし、可能な限り発電コストを抑制する使命があると思っています。その上で、社会全体として許容頂ける相場観の形成が必要だと考えています。CO2フリー電気に対して社会がどの程度の価格を認めるのかという相場観です。
洋上風力開発本格化へ 早期工事再開目指す大間
志賀 さて、21~23年度の中期経営計画の総括では、連結経常利益が目標の900億円を上回るなど、八つの指標に関する成果は概ね上々と見受けました。
菅野 23年度までの3カ年については順調だったと思います。ご指摘の通り経常利益も出ていますし、再エネの開発もだいぶ進みました。ただ、利益の構成要因をみると、豪州の資源権益からの利益が大きかった。ここにあまり依存せず、本業である電気事業でしっかりと利益を生むよう、今年度を含めた次の3か年で取り組む必要があると考えています。
志賀 脱炭素には巨額の投資を要すると思いますが、アセットの組み替えも含めてどう絵を描いていますか。
菅野 次のキャッシュアロケーションはまず再エネです。再エネは、風力や水力の更新工事に加え、新規開発も進めるため多くのキャッシュを必要とする分野です。特に国内風力は、開発候補拠点が多くあります。
志賀 洋上風力については、台風への対応や資材高騰、人材確保面など、事業者はさまざまな障壁に直面していると聞きます。
菅野 当社は陸上風力には2000年代初頭から取り組み、既に20年以上のキャリアがあります。洋上風力に関しても英国のプロジェクトに社員を派遣し、戻ってきた社員が社内で、洋上風力などの開発の場でそれぞれ活躍しています。
洋上風力事業ではまず、港湾区域である福岡県北九州市沖で、九州電力グループなどと協業する計画「北九州響灘洋上ウインドファーム」が建設段階に入りました。本件はFIT(固定価格買い取り)制度適用により初期コストの上昇分も織り込み、一定の利益を確保できるプロジェクトとなっています。そして一般海域では、JERAなどと共同で、秋田県男鹿市・潟上市・秋田市沖での開発に取り組んでいます。
こちらはこれから本格的に機器の発注に入りますが、コストが当初の計画に比べてかなり上がっていることは事実です。本件はFIP(市場価格連動買取)制度適用ですので、コンソーシアムにてコーポレートPPA(電力購入契約)を含めた多様な売電方法を検討しています。これからは、コーポレートPPAを結び、電力や環境価値の販売の見通しを持って設備投資していくことは必須だと思っています。再エネもコストがかかる、一定程度のコストを許容していただかないと新規で大量導入できないという点を、需要家の方々にもご理解いただく段階に来ていると感じています。
志賀 競争力という意味では、CCSを含めた火力のコストや、安全対策を入れた原子力のコストと比べ、洋上風力のコストはイーブンになるような見通しでしょうか。
菅野 一番安いのは原子力だと思います。ただ、原子力は運転開始まで時間を要します。当社の大間原子力発電所にしても、早期運転開始に向けて努力していますが、他の開発と比較すると圧倒的に時間がかかっています。その点には別途留意が必要です。
志賀 大間は、24年後半としていた安全強化対策工事の開始時期の延期を発表しました。ただし、30年度としていた運転開始目標は見直していません。
菅野 これまで私は青森県大間町や両隣自治体を訪問し、今回の遅れに関しての説明をしてきました。地域の期待を裏切る形になりましたが、励ましの言葉をいただき、非常にありがたく思っています。まず地元の皆さまにもお伝えしたのは、原子炉設置変更許可の申請から10年経ち、多くの時間をかけながらも一歩ずつ審査は進んでいるという点です。
できる限り早く安全強化対策工事を開始したい思いですが、過去5回、工事開始時期を延期するという当社の見通しの甘さがあり、また審査では当社の解析データ入力ミスで半年以上時間を費やしたこともありました。今回、いつ工事開始できるとはまだ言えませんが、ある程度の見通しを得たところで工事開始時期を示し、30年度の運転開始を目指します。また、工事開始に先立ち、例えば大型クレーン設置の基礎工事など、事前に進められる作業に着手し、工事開始から運転開始までの時間を短くしていく方針も、地元にご説明させて頂きました。
志賀 大間は、中国電力の島根3号や東京電力の東通に並ぶ貴重な新規電源として、ぜひ実現すべきです。その上で建設コストの問題などを鑑みると、長期脱炭素電源オークションの活用もやはり視野に入ってきますか。
菅野 この制度は、固定費相当分の支払いを原則20年間約束される一方、卸市場などからの収益の約90%を還付する仕組みです。この制度の活用も念頭に置き、今後も安全確保を最優先に推進していきます。