DR資源の可能性を広げる挑戦 「PEMS」の社会実装に向けて
【電力中央研究所】
坂東 茂/電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門(兼)社会経済社会研究所 上席研究員
需要側資源の活用をテーマに研究活動を行っているのは電力中央研究所の坂東茂上席研究員。
2010年にこの課題に着手し、海外事例の調査から実証実験まで多様な研究手法を展開してきた。
フレキシビリティ供給源としての需要側資源の活用―。電力中央研究所グリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門の坂東茂氏が取り組むテーマだ。再生可能エネルギーの普及が進む中、ヒートポンプ(HP)給湯機、産業プロセス・機器はDR(デマンドレスポンス)資源として重要視され始めている。坂東氏は、DR資源を束ねて制御するVPP(仮想発電所)事業について、国内で経済的に運用するための技術や設計などの評価を行っている。
電中研に入所した2010年から需要側資源の活用をテーマに据え、多様な研究手法を駆使してきた。VPPの事業性について、先行していた国外の事例を対象に、事業性の確保やリソース拡充に向けた工夫を分析し、国内でビジネス展開する上での課題を探った。国内調査においては15年に、産業用需要家を対象とした予備力型DRへの対応可能性を調査するため、大規模なアンケートを実施。 21年には、資源エネルギー庁のエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス検討会が実施した調査にも協力した。双方とも結果として、電気炉や電解設備などが有望なDRリソースであることを明らかにした。
DR対応可能な植物工場 離島の経済循環に貢献
NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)からの委託事業で、DR活用が可能な「植物工場用エネルギーマネジメントシステム(PEMS)」を開発した。主な電力消費機器である、発光ダイオード照明機器、エアコン、培養液循環ポンプの3点をDRの対象とした。これらは太陽光発電(PV)をメイン電源とし稼働させる。PV出力の余剰分を蓄電池で貯蔵し、夜間は蓄電池からの供給で、再エネ由来の電気で運用を目指すというものだ。さらには、電力系統側からの要請があればDR対応も可能である。もちろんDR対応で植物の生長に影響が出ないようにする必要がある。実験対象となったレタスは、光の強度や照射時間、室内温度が適切でないと生長障害を引き起こすため、影響が出ない範囲を特定し、DRメニューとして組み込んだ。
実証地には沖縄県宮古島を選んだ。21年から二年間検証した結果、DR信号に反応して、需要の上げ下げが設計通りに行われたことを確認した。
「宮古島は約5万5000人の島人口に対し、毎年100万人ほどの観光客が訪れる。だが顧客に提供する食料やエネルギーは島外に依存しており、地産地消による経済循環が求められていた。このような離島の課題に対して一役買えないかと思い、実証を検討した」
こうした取り組みは国外でも反響を呼んでいる。今年5月にはNEDOからの委託事業でイギリスを訪れ、現地の政府関係者や農業関係者、学識者と意見を交わした。特に冬期の日照時間が短いイギリスでは、風力発電の余剰電力を植物工場で活用したいという要望が強い。
一つのテーマにこだわらず 「ワクワク」が原動力
学生時代には異なる分野の研究に専念していた。
東京大学工学部産業機械工学科では、HP給湯機などのライフサイクル評価を卒業論文のテーマにした。その後、東大大学院新領域創成科学研究科に進学し、修士課程では火力発電所の排ガスからのCO2分離技術の経済性評価に焦点を当て、博士課程ではCCS(CO2回収・貯留)へとテーマを変えた。
博士課程修了後の05年、東大大学院工学系研究科の特任助教として、分散型エネルギーシステムの最適な設備規模・運用などの設計技術について研究した。テーマをコロコロ変える研究者は珍しいというが、「ワクワクするテーマには心が動かされる」と語る。助教時代には電中研の研究者と話す機会が多かった。その際、研究熱心な姿勢や活発な議論が交わされる点に興味を引かれて入所を決意した。
今年6月と9月には電中研の主催で、VPP・DRに関するセミナーが開かれ、坂東氏も登壇した。オンラインと対面のハイブリッド形式で開催し、延べ500人ほどが参加した。
「今回宮古島で実証した植物工場のように、電力需要を制御することにより、需給バランスの調整に協力できるDR資源を探索することは重要だ。こうした役割を果たすVPP事業に関して研究者として最新の動向も踏まえた研究成果や情報の発信を心掛けたい」
11月にも「研究報告会」 が開催される。14年間にわたり需要側資源の活用に関する研究に従事してきた坂東氏の研究報告に注目が集まる。
※1 「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」
※2 23年度「スマートコミュニティ実証事業に関する技術のシステム化検討と海外展開ポテンシャル調査」