【コラム/11月7日】BRICS首脳会議を開催 脱炭素至上主義より現実的政策を宣言
「公平性」を重視 CBAMをやり玉に挙げ批判
さて、エネルギー政策についても、パラグラフ80から83にかけて、興味深いことが書いてある。
まず、エネルギー安全保障・エネルギーアクセス・経済成長を重視していること。気候変動対策(トランジション)も必要であるが、「バランスをとるべきだ」、としている(パラ80、81)。こうした書き方は、今やすっかり脱炭素至上主義になってしまった西側は絶対にしない。
一方で、「公平」ということに重きを置いている。特に、巨額に上る気候変動対策の実施のためには、先進国から途上国への資金提供が必要だとしている。このあたりは従前からのグローバルサウスの主張そのものだ(パラ82)。
そして、気候変動対策を口実とした懲罰的・差別的な措置には断固反対、としている(パラ83)。特に名指しでやり玉に挙がっているのは、EUが導入を進める炭素国境調整措置(CBAM)だ。これは、温暖化対策をあまり実施していない国からの製品輸入に対して関税を課する、というもの。このような措置はBRICS側から見ると、西側によるロシアへの一方的な経済制裁と類似の構図に映っているようだ。
宣言に書いていないことも注目に値する。印象的なのは、ここ数年西側が固執してきた温暖化抑制の「1.5℃」や「2050年CO2ゼロ」といった数値目標が全く言及されていないこと。その一方で、「気候変動枠組み条約とパリ協定の完全な実施を求める」ともしている。元々両者には、個別の国の数値目標達成の義務など書かれていない。国別での50年CO2ゼロといった目標は、そもそも国連で合意していないものなのに、それを西側が一方的に押し付けてきている、との認識があるようだ。
なお、国連を重視する姿勢は気候変動問題に限った話ではなく、カザン宣言では一貫している。国連は、常任理事国であるロシアと中国にとってはもちろん居心地がよい。グローバルサウスとしても、数の力によってかなりの発言力がある。BRICSにとっては、西側の一方的な措置に対抗しうる多国間主義に基づく機関、という位置づけになっている。
ウクライナでの戦争によって、ロシアは西側との縁が切れてグローバルサウスに接近した。グローバルサウスも、西側によるイスラエルへのテコ入れや、恣意的な経済制裁を嫌悪しており、これによりBRICSが存在感を増すようになった。
グローバルサウスは、ロシアへの経済制裁に参加するつもりなど毛頭ないことが、今回も改めて示された格好だ。気候変動についても、西側によるお説教に従うつもりなど全く無く、エネルギー安全保障、アクセス、経済成長を重視したエネルギー政策を取ることをはっきりさせた。西側は、自らが主導して世界の脱炭素を達成するという立場を取り続けているが、冷静に現状を見渡せば、これは画餅に帰するのではないだろうか――。
【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「亡国のエコ 今すぐやめよう太陽光パネル」など著書多数。最近はYouTube「杉山大志_キヤノングローバル戦略研究所」での情報発信にも力を入れる。
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