【コラム/11月15日】ドイツにおけるエネルギー自立支援ビジネスの拡大

2024年11月15日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

ドイツでは、家庭向け蓄電池の販売が好調だ。エネルギー貯蔵システム協会BVESによると、販売額は、2022年に31%増、2023年に123%増を記録し、2024年は26%増(売上高4.8 Mrd. €)と予測されている。設置台数を見ると、2022年には55万台だったのが2024年には200万台になると予測されている。その背景には、電気料金が上昇傾向にある中で家庭のエネルギー自給自足への関心が高まっていることがある。
このような蓄電池販売の増大は、sonnen、Senec、 E3/DCなどの蓄電池供給事業者に、エネルギー自立を支援するビジネスの拡大のチャンスを付与している。以下では、ドイツ最大手の蓄電池製造・販売事業者であるsonnenの例で、その実態を紹介する。

2010年設立のsonnenは、蓄電池の製造・販売事業者であるが、競争が激化する蓄電池市場で、製造・販売のみに従事することは、リスクが大きいと判断された。このため、同社は、蓄電池技術の一層の革新だけでなく、エネルギーサービスの提供にも注力することになった。同社の検討チームは、調査分析の結果、家庭が蓄電池を購入する理由は、エネルギーの自給自立を高めるとともに、エネルギー転換に積極的に貢献したいと考えていることにあるとの結論に至り、2015年にsonnenCommunityを設立した。

sonnenCommunityは、sonnen社の蓄電池を購入した家庭をコミュニティとしてリンクするコンセプトである。具体的には、コミュニティへの参加を選択したメンバーに対して、SonnenVPP ソフトウェアを用いて、自家消費とVPPによりコーディネートされるコミュニティからの供給を組み合わせて、電力需要を最大 100% まで賄うことを可能にする。コミュニティ内で、需要を賄うことのできない電力は、再生可能エネルギー事業者とのPPAでコミュニティに直接供給される。その大部分は、オーストリアの水力発電(Kainischtraun、Strechenbach、Hallstatt、Sölden、Neubruckなど)である(それでも不足する電力は、卸電力市場から調達される)。
これに関連して、家庭用 PV システムと sonnen蓄電池を備えた家庭向けの月額定額電力契約である sonnenFlat が、2016年に導入されている。定額の電力契約は、メンバー間の公平感とシェアリングエコノミーの感覚を育むのに役立つと考えられる。コミュニティのメンバーは、発足当時、数百人に過ぎなかったが、蓄電池販売の拡大に伴って、今日では約25万人にまで増大している。

sonnenCommunityは、様々な方法で、電力システムの安定化に貢献している。個々のメンバーレベルでは、蓄電池を使用してオンサイト消費を最大化するソフトウェアにより、ネットワークの需要が削減される。また、需要側資源を利用してメンバー間の電力フローを管理し、電力システムにさまざまなアンシラリーサービスを提供することで、混雑コストを削減し、ネットワークの建設を遅らすか回避するとともに、ネットワークのバランシングに寄与することが可能である。さらに、容量市場が設立される場合には、同市場へのデマンドレスポンスの投入を通じて追加的な発電能力を最小限度に抑えることができる。

需給調整市場へアンシラリーサービスを提供する場合には、少額の金銭的報酬がメンバーに支払われる。sonnenは、ヒートポンプメーカーの NIBEとの協調で、昨年コミュニティのメンバーにヒートポンプを積極的に導入する方針を打ち出している。これにより、コミュニティのメンバーは、エネルギーの自給自足をより高め、より多くのアンシラリーサービスを系統運用者に提供することで、エネルギー転換に資するだけでなく、追加的な報酬を獲得できる。

以上、sonnenCommunityについて述べてきたが、そのアイディアは エネルギー転換への参画、個人およびコミュニティによるエネルギーのオートノミー、さらにシェアリングエコノミーの実現としてまとめられる。そして、このようなモデルを支援しているのが、電力システムの安定化に資することで得られる収益である。
将来的に、CN実現をためのコストを反映して、電気料金の上昇傾向が続くこと、大量生産や技術革新で太陽光パネルや蓄電池の価格が持続的に低下していくこと、さらに再生可能エネルギー電源の増大によって、フレキシビリティへのニーズが一層高まっていくことが考えられる。このような状況の中で、蓄電池などの需要側資源が増大するとともに、エネルギー自立を支援するビジネスも一層活性化していくだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。