「止まる」「冷やす」「閉じ込める」 対策工事終えた7号機の最新事情
所長が率先垂範で対応 さらなる安全性を追求
「閉じ込める」対策も強化されている。それが、ペレット、被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、原子炉建屋で構成される「五重の壁」だ。閉じ込め機能を維持するさまざまな設備も取り付けた。
それでも原子炉格納容器が加熱し、中の圧力が高まってしまった場合に原子炉格納容器を破損させないよう、圧力を逃がすために圧力を抜くベントという方法がある。外部に逃す蒸気から99・9%以上の放射性物質を取り除ける「フィルタベント」装置を新たに設置。ベント用隔離弁については前述した通り放射線管理区域外から遠隔手動操作できるよう改造した。
ハード面だけではない。人などソフト面での対応にも力を入れる。さまざまな新たな設備が構内に数多く取り付けられたことで、発電所の構造が複雑になった感は否めない。それでも緊急時の操作で混乱しないよう、災害に備えるための訓練が繰り返し行われている。
コミュニケーションを良くする工夫も行った。構内で働く人は約6000人、東電社員は約1200人いる。さまざまな協力企業が集結し、発電所の工事、運営を行っているのだ。
21年秋に赴任した稲垣武之所長は22年4月から毎日、出張以外では必ず早朝から正門に立ち、入構する作業員にあいさつし、発電所の問題などを取り上げたブログを書く。また発電所に役立つことをした人に、所長自筆のメッセージカードを届けている。カードの数は5000通を超える。
求められる県の同意 再稼働を阻む要因は?
稲垣所長は、福島第一原発事故を現場で体験した。「経験者の私が納得できない問題が一つでもあれば再稼働はさせない」として、率先垂範の姿勢で課題を一つ一つ解決してきた。本誌取材班を案内した林勝彦副所長は、「対策はこれで終わりではない。さらに安全性を高め、進化するためにどうすればいいか、発電所全体で考え努力をしていく」と話す。
7号機の安全対策の工事を終えたことで、東電側の再稼動の準備はほぼ整った。今後の再稼働に向けて求められるのは、新潟県知事、県議会側の同意だ。福島事故の記憶や柏崎刈羽の現場における相次ぐミスなどから、東電が原子力発電所を再び運用することについて、警戒する声があるのは理解できる。とはいえ現地取材で分かったのは、重大事故の可能性が極限まで減ったことだ。課題となっている緊急時の避難路の問題については、9月6日の原子力閣僚会議の場で、国が整備対策を検討する方針を示した。
地震や火災、津波が発生した際、原子炉を安全に停止、冷却し、たとえ炉心が損傷し、万が一に全電源喪失となった場合でも安全性を確保するため幾重にも施された防護機能。ここまで安全対策を強化し、膨大な知恵・知見、人、モノ、金を注ぎ込んだ発電所を今後もひたすら停止させたままにしておく理由は見当たらない。
「とにかく東電が信用できないから、再稼働は認められない」。このところ、再稼働反対派からはこんな声が聞こえてくるようになった。これはとりもなおさず、「信用」という抽象的なこと以外に、反対する理由が見つからないことの証左と言えるのではないだろうか。施設のハード面に関して「この設備やこの装置に安全対策上の不安があるから、そこが改善されない限り再稼働は認めない」といった具体的な指摘は、少なくとも反対派からは聞こえてこない。
11月には柏崎刈羽と同じBWRの東北電力女川2号機、12月には中国電力島根2号機がそれぞれ再稼働の予定。柏崎刈羽7号機についても、東日本地域の供給力確保の観点から早期の再稼働が求められている。
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