都心の地域冷暖房で新たな一歩 50年の蓄積土台に提供価値を拡大

2024年12月8日

【丸の内熱供給】

丸熱はビジネス街「大丸有」などで熱エネルギーを絶え間なく届けてきた。

培った経験と技術でサービスを拡充し、脱炭素社会づくりも支援する構えだ。

「都心の地域冷暖房を通じ、より良い都市環境の創造をめざす」―。そんな基本使命を掲げて約50年にわたり街づくりを支えてきた丸の内熱供給(丸熱、東京都千代田区)が、次の半世紀へ向けて新たな一歩を踏み出した。防災機能の強化や脱炭素化など、数々の時代の変化に向き合いながら事業を成長させてきた丸熱の歩みに迫った。

都心の地下に広がる配管網

日本を代表するオフィス街で知られる東京都千代田区の大手町・丸の内・有楽町地区。3地区の頭文字をとって「大丸有」とも呼ばれる同地区の地下にはエネルギー供給用のトンネルが張り巡らされ、その中を総延長約30‌kmに達する配管が走っている。その配管ネットワークを通じて、冷暖房用の熱エネルギーを絶え間なく届けているのが丸熱だ。 

現在は、大丸有以外も含めて23カ所のプラントで熱を製造し周辺の建物へ供給している。1970年代当時の大丸有地区は、皇居の松が枯れるなど大気汚染が深刻化し、公害防止の観点から地域冷暖房を推進する動きがあった。そこで、親会社の三菱地所をはじめとする同地区の地権者が中心となって、73年に丸熱を設立した。


大手町にプラント第1号 環境要請で役割が変化

営業を開始したのは76年。同年に丸熱初の地域冷暖房プラントである旧大手町センターが完工し、大手町に建つ複数のビルを対象に蒸気と冷水の供給を始めた。これが、常駐する専門技術員が供給状況を監視して冷暖房需要に対応する「メインプラント」の第1号だ。80年代に入ってからは、内幸町や丸の内一丁目にもプラントを構え、業容を拡大していった。

大丸有地区はその後、国内外の有力企業が集積する国際ビジネスセンターとして存在感を発揮。同地区の整備強化が望まれる中、88年には「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」(現大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会)が立ち上がった。丸熱もインフラ部会のメンバーとして同協議会に参画し、再開発に積極的に貢献した。

2000年代に入ると、環境庁が省に昇格し、先進国に温室効果ガス排出量の削減を課す「京都議定書」が発効されるなど、国内外で環境問題を重視する機運が醸成。こうした動きを背景に熱供給事業者へ期待する役割も、当初の都市公害対策から省エネルギー化や地球温暖化防止へと変化していった。

丸熱がそうした要請に応えて、大手町を舞台に追求してきたのが、「スパイラルアップ効果」だ。既存・新設の7カ所の冷水プラントを連携させて高効率の最新プラントを優先的に運転することで、エリア全体のエネルギー効率を高める取り組みだ。

東日本大震災が発生した11年以降に防災や事業継続への対応を強化する意識が高まる中で丸熱は、供給体制の強靭化や効率化に向けた取り組みを強化し始めた。

そうした狙いで機能を強化したプラントの一つが、18年に新設した「丸の内二重橋ビルプラント」。コージェネレーションシステムを導入したことが特徴で、そこで発電した電気を非常時に周辺ビルの帰宅困難者受け入れスペースへ供給できるようにした。20年5月には、旧大手町センターを高効率プラントに更新し敷地内移転する工事を終えたのを機に、重油とガスの両燃料に対応した非常用発電機を取り入れた。

丸熱の視線の先にあるのが、脱炭素社会という潮流だ。20年10月には、新時代を見据えた中長期計画「MARUNETU VISION 2030」を発表。同計画を通じて、従来から重視してきた「強靭化」「省エネ」「環境」という三つの価値を深掘りするとともに、「熱供給エリアへの貢献」と「三菱地所グループ内外のパートナーとの共創」という展開に力を注ぐ方針を明示した。

丸熱の中長期ビジョンの概要


外部パートナーとも共創 AIシステムの活用に意欲

エリア貢献に向けては例えば、熱利用に伴うCO2の排出量を相殺する「カーボンオフセット熱メニュー」を用意し、25年度からの供給を目指す。共創の成果の一つが、地域冷暖房プラントの効率を高める「AI最適制御システム」だ。新菱冷熱工業(同新宿区)と共同開発したもので、既存プラントへの採用拡大を狙う。

「時代の変化やニーズに的確に対応しながら、脱炭素社会をリードする新しい丸熱へと進化していきたい」と広報担当者。都市インフラの未来を照らす挑戦から今後も目が離せない。