【視察①】豪州CN戦略の最前線を行く 再エネ8割目指す資源大国事情
【エネルギーフォーラム主催/海外視察】
カーボンニュートラル(CN)の加速とエネルギー安定供給が大きな課題となる中、小社は、急速な再エネ化に舵を切る資源大国・豪州の取り組みを調査するべく、「豪州カーボンニュートラル戦略視察団」を主催した。本誌記者のレポートと山地憲治・地球環境産業技術研究機構(RITE)理事長の団長記で、視察の模様を紹介する。
視察団には、電力、都市ガス、メーカー、通信、研究機関などから17人が参加。2024年11月17日から22日までの6日間で、豪首都・キャンベラとメルボルン2都市の政府機関やエネルギー事業者、スタートアップ企業などを訪問した。
日本政府は24年度中にも、国の中長期のエネルギー政策の指針として「第7次エネルギー基本計画」を策定する。20年の「カーボンニュートラル(CN)宣言」を境に、脱炭素化の潮流が急加速したが、ウクライナ紛争を契機とした安定供給への懸念、そして足元の物価高を受け、より現実的で受容可能な政策を描けるかが注目される。そういった意味で今回の視察は、非常に示唆に富んだものとなった。
与野党の政策に隔たり 注目の国民の選択
キャンベラに降り立った一団がまず向かった先は、連邦政府の気候変動・エネルギー・環境・水資源省(DCCEEW)。ここでは、CN戦略の担当官であるヘレン・ベネット氏らと意見を交わした。
豪州では、与党・労働党が政権を取った22年以降、30年までに温暖化ガス(GHG)を05年比43%削減し、50年までにネットゼロを達成するという目標を掲げ、強力なCN戦略が進められている。火力設備の老朽化に合わせ、再生可能エネルギーと蓄電池を主軸とした供給構造への転換を成し遂げようという現政権の覚悟は強い。電源構成に占める再エネ比率を30年までに82%に引き上げ、一方で石炭火力は40年までにほぼ廃止することになっている。
こうした、現政権の下でのCNへの非常に高い目標を国民はどう捉えているのだろうか。ベネット氏はアンケート結果を踏まえ、「7~8割がポジティブな意見を持っている」と強調した。とはいえ、既に昨今の燃料価格高騰などに起因するエネルギーコストの増大は、国民生活にマイナスの影響を与え始めている。シドニーとメルボルンに住む人に聞くと、24年4月に多くの電力会社が料金を3割ほど値上げした。22年比では倍増しているといい、少なからず不満があることがうかがえた。
再エネ一辺倒の現政権の政策ではさらに国民負担が増大しかねないと警鐘を鳴らし、それに待ったをかけようとしているのが、野党・保守連合だ。今回の視察では、国会議事堂において、次期総選挙に向けた公約で原子力発電所の導入を掲げるテッド・オブライエン下院議員と会談する機会を得た。
オブライエン氏は、小型モジュール炉(SMR)と新型軽水炉の導入を念頭に「現政権が掲げる再エネ主軸のCNに比べ、原発を含めたエネルギーミックスによるCNの方がコストは安くなる」とし、既存石炭火力を予定より早めて廃止しようという動きにも懐疑的なスタンスを取る。現在、原発ゼロの豪州において、新たに建設することへの風当たりは強い上に、商用利用については連邦法で禁じられていることもあり、原子力を活用するとなれば再エネ以上の困難が待ち受ける。果たして国民の選択は―。25年の総選挙に関心が高まる。
キャンベラでの最後の訪問先となったのは、米YES Enegyが郊外で建設中の蓄電所「Molonglo BESS」。訪問した際は第一段階として5MW(1MW=1000kW)/7・5MW時が稼働中だったが、24年末には約12MW/15MW時が稼働するという。説明に当たったリース・ダッティ氏によると、「これまでは、電力需給が厳しい時間帯に放電することで需給バランスの安定化に貢献する役割を担ってきたが、今後は周波数制御にも活用していく」とのことだった。
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