【視察①】豪州CN戦略の最前線を行く 再エネ8割目指す資源大国事情

2025年1月6日

大量のDER接続 配電網への影響課題

ビクトリア州の州都メルボルンでは、Australian Energy Market Operater(AEMO)を訪ねた。対応してくれたのは、プリンシパル・アナリストのパブロ・キャンピロス氏だ。

AEMOは、豪州の系統運用とエネルギー市場を運営・管理しており、変革するエネルギーシステムの中でセキュリティ、信頼性、費用対効果を最適化するシステムを実現するという重要な役割を果たしている。キャンピロス氏が所属するFuture Energy teamでは、分散型エネルギーシステム(DER)のネットワークへの統合をミッションとしている。

というのも、屋根置き太陽光(PV)の導入件数は400万件以上に上り、今後さらに増加する見通し。大量のDERが接続された配電網の潮流管理が大きな課題となりつつあるのだ。現在、PVと一体で制御するための定置型蓄電池や電気自動車の導入に対し、どのようなインセンティブを付与するべきか検討されているところだという。

AEMOでは系統運用上の課題を聞いた


脱炭素ベンチャーを訪問 日本市場にも熱視線

SunGreenH2は、2020年にシンガポールを拠点に発足した水素生成系のスタートアップ企業。メルボルンでは、電気分解装置の研究開発と製造を行っているということで、その現場を視察した。同社は、AEM(アニオン膜)型を採用している。

創業者の一人であるサイード・パナCTOは、「従来のAE(アルカリ水)型やPEM(プロトン膜)型と比べ高効率な電解が可能であるほか、プラチナ系貴金属を用いない独自開発の電極を用いることで劣化しにくく低価格な装置を実現できる」と自信をのぞかせ、日本でのビジネス展開に意欲を見せた。

州営電力会社であるSEC社では、州が掲げる再エネ導入目標を達成するために同社が実施している取り組みについての説明を受けた。具体的には、①揚水発電や蓄電池といったエナジートランジションを加速するための投資、②家庭のオール電化シフトの支援、③再エネ人材、労働力の創出や育成―。将来、州に住む人々が再エネを手ごろな価格で享受できる環境を作り出すことを目指すという。

いよいよ滞在最終日。SunGreenH2に続く2社目のスタートアップ企業は、バッテリー寿命制御ソリューションを提供するRlectrifyだ。1年前にCEOに就任したジェフ・ルノー氏は、伊Enel X社のアジアパシフィック担当だったということもあり、日本のマーケットにも造詣が深い。

Relectrifyの技術を説明するベン・シェパード氏(右)

セル単位でパフォーマンスを監視することで、特定のセルが劣化しないようにマネジメントし長寿命化を図ることができる。商用モデル第一弾となる「AC1」の受注を25年2月に豪州と台湾で開始。26年には米国、そして日本でも市場投入を目指すという。

最後に訪れたのは、メルボルンから車で2時間ほど離れた「ヘイゼルウッド蓄電所」だ。巻頭の「エネルギーインフラの憧憬」と、山地氏による印象記でも紹介しているため、ここでは詳しくは触れないが、キャンベラやメルボルンの都市部とは違う、豪州のスケールの大きさをまざまざと見せつけられることになった。


今回の視察では、CNの実現という大きな目標を掲げる豪州の現状を、政府から民間までさまざまな視点で見ることができた。旗を振るだけではなく、どうすれば新たな領域に投資を呼び込めるのか―。同じ目標を持つ日本にとっても、参考にするべきことは多い。

続きはこちら >>【視察②】印象に残った挑戦的取り組み わが国が学ぶべき点とは

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