【視察②】印象に残った挑戦的取り組み わが国が学ぶべき点とは

2025年1月6日

屋根置きPVは400万件以上 蓄電池導入と州間連系線を強化

メルボルンでは、豪州東部と南東部の国家エネルギー市場「NEM」を運用する系統運用機関AEMOと、VIC州で発電と小売りを行う州営電力会社SEC社を訪問した。

NEMは、QLD、NSW、VIC、SA、TASの各州をカバーする広大な電力系統で、州間はタスマニアとの海底直流ケーブル(Bass Link)などで連系されている。NEMは5分間隔のkW時取引を行っており、検討中ではあるが、現状では容量市場はない。太陽光発電の大量導入によって出力制御が増えており、最近の太陽光発電設備には柔軟な逆潮制限契約(Flex Export Limit Contract)が義務付けられている。屋根置き太陽光発電が400万件以上に導入されており、系統側と需要側(EV活用を含む)の双方で蓄電池の導入、州間の連系線強化に取り組んでいる。なお、水素の活用について質問したが、コストが高いため国内利用の可能性は低く、日本などへの販売を志向しているとの回答だった。

SunGreenH2社が開発中のセル・スタック

SEC社では、会談冒頭で州政府の投資促進政策の説明があった。州の人口は50年に1000万人にまで増加が見込まれているとのことで、わが国からの投資も進んでいるようだ。連邦政府より野心度を上げて、45年までにネットゼロ実現の目標を掲げており、そのための政策として、蓄電池を中心とするエネルギー貯蔵、洋上風力、グリーン水素の推進に取り組んでいる。エネルギー貯蔵は35年までに少なくとも6・3GW(1GW=100万kW)、洋上風力は40年までに9GWの目標を掲げている。水素については既存ガスパイプラインに最大10%混入することを見込んでいる。SEC社の脱炭素戦略としては、①再エネ+Storage:長期貯蔵としての揚水発電開発、民間と連携した大規模蓄電所、再エネゾーン指定、②家庭のオール電化、③再エネ人材・労働力の創出・育成―を挙げている。

前述の通り、豪州は再エネ+バッテリーでの脱炭素実現を目指しており、大型の蓄電所が展開されている。今回の視察ではキャンベラ郊外で建設中のMolonglo蓄電所と既に運開しているVIC州のヘイゼルウッド蓄電所の2カ所を訪問した。

Molonglo蓄電所は米YES Energyグループが建設しており、同社が豪州で取り組む最初の蓄電所案件である。環境配慮型インフラファンドの投資によって進められており、第1段階は5MW(1MW=1000kW)/7・5MW時、最終的には約12‌MW/15‌MW時になる。

同社は太陽光単体の開発を進めてきたが、今後は蓄電池との併設案件を進めるとのこと。運用はSA州からリモートで行い、需給調整が主目的だが、今後は周波数制御などにも活用する。

ヘイゼルウッド蓄電所は150MW/150MW時の規模で稼働中。仏Engieと英Eku Energy社が共同出資で建設し、両社が連携して取引ポリシーを定めた上で、米Fluenceの「Mosaic」というシステムを活用して5分単位の充放電制御・市場取引を行っている。褐炭発電所跡地に設置されており、系統接続は既存設備を活用している。周辺で今後も開発を進め、合計で600MWクラスになる見込みとのこと。すぐ側にある広大な褐炭の露天掘り鉱山の跡地が印象的だった。


ビジネス機会狙うスタートアップ 現地で感じた確かな実力

水素製造とバッテリーに関するスタートアップ2社(SunGreenH2とRelectrify)も大変興味深かった。前者は、本社をシンガポールに置きメルボルンで研究開発と製造を行っている。AEM(アニオン交換膜)型の電気分解による水素製造を目指している。アルカリ電解より効率や応答性が良く、PEM(陽子交換膜)電解と異なり白金族など貴重鉱物を必要としない。現在は50‌kWまでのセル・スタックを開発済みで、100kWにも対応可能。25年末までにMW級のセル・スタックを開発予定で、その後GW級までのスケールアップに取り組むという。小人数のチームだったが意気は高い。

Relectrifyではジェフ・ルノーCEOがプレゼンした

後者はバッテリーマネジメントを得意とし、セルレベルで劣化を診断してバッテリー寿命の管理を行っている。セルの監視と制御に加えて、劣化したバッテリーパックを交換するダイナミックキャパシティマネジメントによって性能を20年間維持することができる。特に興味深かったのはCell Switchと呼ぶ高速スイッチでセルレベルでオン・オフを行い正弦波を作るヴァーチャルインバータだ。これによりパワーコンディショナー(PCS)なしでバッテリーから直接交流出力を生成できる。充電時も同じメカニズムが使える。25年から250kW/1MW時の「AC1」と名付けた商用機を販売するという。説明も明確で、確かな実力を感じた。

今回の視察を通して豪州の挑戦的取り組みが印象に残った。与党の再エネ+バッテリー推進も野党の原子力導入案も、課題は多いが真剣に取り組んでいるし、5分間隔の電力卸市場の運営、火力発電跡地での大規模蓄電所の建設と運用、そして意気軒高なスタートアップなどわが国が豪州から学ぶことは多い。

【視察①】豪州CN戦略の最前線を行く 再エネ8割目指す資源大国事情

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