【中部電力 林社長】将来の情勢見据えた経営ビジョンを実現し 政策目標にも貢献へ
昨今の情勢変化を先取りした経営ビジョンの実現に全力投球する。
脱炭素ではグループで複数地点の洋上風力の開発に関わるほか、浜岡原子力発電所の審査過程も一つステップアップした。
電気事業以外では不動産をはじめ、中部エリア内外で強みを生かした事業展開を加速させている。
【インタビュー:林 欣吾/中部電力社長】
志賀 昨今、「内外無差別の徹底」がより厳格に求められるようになりました。JERAとの長期契約にはどう影響しますか。
林 JERAは全ての小売電気事業者を対象に、2026年度以降の長期卸契約の公募を開始し、電力・ガス取引監視等委員会の求める「内外無差別な卸売」に取り組んでいると認識しています。同年度以降は、中部電力ミライズとJERAの長期卸契約も、この公募に基づく契約に置き換わっていくと捉えています。需給のバランスが維持されている状況下においては、内外無差別により電源の流動化が進むことで、幅広い事業者から調達できる環境につながるでしょう。また、中部エリア外からの電源調達が進むことは、エリア外での販売機会拡大にもつながる可能性があります。今後も安定供給を大前提として市場動向を注視し、臨機応変に調達ポートフォリオを組み替えていく方針です。
利益水準拡大に手応え 洋上風力の開発に全力
志賀 21年に「中部電力グループ経営ビジョン2・0」を策定しました。それから数年経過し、電力経営を取り巻く環境は大きく変わっています。ビジョンの進捗、そして見直しの必要性をどう考えますか。
林 経営ビジョン2・0では、30年に連結経常利益2500億円以上を目標に、収益基盤の拡大と同時に、事業構造の変革をうたっています。2500億円以上の半分は国内のエネルギー事業で盤石なものとし、残りの半分はグローバル事業を含む新成長分野から生み出すことを目指します。他方、ビジョン2・0策定以降、電気に対する評価は大きく変化し、需要がシュリンクせず伸びていくマーケットと位置付けられるようになりました。海外情勢では地政学的リスクが顕在化。国内では電気料金のボラティリティが高まり、脱炭素要請も厳しさを増す一方です。しかし、これらの経営環境の変化により、優先順位やスピード感などの見直しはあっても、変わらぬ使命の完遂と、新たな価値の創出が必要だというビジョン2・0の根幹は変わりありません。変化を先取りした内容であると自負しています。
足元の進捗としては、グループを挙げて経営効率化・収支向上施策を実施しており、一時的な利益押し上げ要因を除いても2000億円程度の利益水準を維持する力がついてきたものと捉えています。
志賀 需要家の脱炭素電源へのニーズが拡大しています。先述のビジョンでは、30年頃に「保有・施工・保守を通じた再生可能エネルギーの320万kW以上の拡大に貢献」との目標を掲げています。
林 24年度上期末時点の当社グループの持分である設備容量は約103万kWで、進捗率は約32%です。24年は1月に太陽光発電事業者3社を完全子会社化し、3月にウインドファーム豊富、6月に八代バイオマス発電所の営業運転開始や西村水力発電所の開発決定をするなど、着実に歩を進めています。
志賀 再エネの主力として期待される洋上風力では、中電グループは4カ所の計画に関わっています。他方、洋上風力は資材高騰や人材面など多くの問題があることも事実です。
林 まず、電力需要が伸びていく中で、将来の安定供給の確保と脱炭素社会の実現を同時に達成するためには多様な電源を選択肢に入れておく必要があります。その中でも再エネは最大限導入するべき電源と認識しており、適地のポテンシャルを考えれば洋上風力の開発が重要です。ただテクノロジーや開発コストの上昇など課題が多くあります。ハードルが高くとも、コストダウンやイノベーションなどあらゆる方策で乗り越えられるよう努力していきます。
志賀 政府公募第一ラウンドで3地点を落札したコンソーシアムには、陸上風力で実績のあるグループ企業のシーテックが名を連ねています。
林 コンソーシアムの代表企業は三菱商事ですが、発電事業の技術面、そして地元への説明の仕方などは、やはり電気事業の経験がなければ分からない感覚があるかと思います。これらの面でシーテックのノウハウを生かし、当グループが貢献していけるものと思います。