【西部ガスホールディングス 加藤社長】経営合理性の追求とESG経営の徹底を両立 組織の価値観を変える

2025年1月1日

志賀 会社人生の中で最も印象に残っていることは何ですか。

加藤 私の自慢の一つに同期入社よりも8年間、西部ガス勤務歴が短いことがあります。というのも、1996~99年、2003~08年の2度にわたり当社と資本関係のない企業に出向していました。特に2度目の出向先であるガス機器販売店「ユニティ」では、凡事徹底―当たり前のことを当たり前に、そして特別熱心に取り組み続けることで、人的補強やリストラをすることなく出向翌年にV字回復を果たしました。この経験から、マネジメント次第で業績は落ち込みも回復もするということを学びました。

出向直後に最初に着手したことがあいさつの練習と「プロジェクトX」のDVD視聴を通じた早朝勉強会でした。これが、あいさつをしない暗い社風、「やってもやらなくても同じ」という倦怠感のまん延、「どうせ赤字会社だ」という自信喪失の社風にドカンと穴を開けたと自負しています。吉田松陰の「夢なきものに理想なし、理想なきものに計画なし、計画なきものに実行なし、実行なきものに成功なし、ゆえに夢なきものに成功なし」という言葉を念仏のように唱え、計画営業にまい進していました。この時期に会社は社員のためにあり、それは家族の幸せにつながるという揺るがぬ仕事観と人生観を身に着けたと思います。


天然ガス需要を喚起 低・脱炭素化に貢献

志賀 エネルギー事業を取り巻く環境は不透明ですが、低・脱炭素社会に向け、地域における都市ガス会社の存在感は高まっていくのではないでしょうか。

加藤 長期的には、当社グループにおいても、ガスエネルギー事業以外の売上高比率を高める必要性があるとの観点から、経営の多角化と事業拡大を目指してきました。ガスエネルギー事業以外に強くスポットライトが当たったことによって、既存事業に携わる社員のモチベーションが下がっていることが、近年の動きの中で最も気になっていることでした。

「ガスエネルギー事業のグループ内売上比率縮小」という言葉は合理的かもしれませんが、事業に携わる社員のロイヤリティやモチベーション、社員エンゲージメントなどを考えると、それを否定してでも「同事業の重要性」を表す言葉に置き換えていく必要があると感じています。要は、外部環境やマーケットの将来状況から、〝世帯商売〟の側面では長期的に需要が縮小するのは自明です。しかし、戦略の方向性を打ち出すタイミングは早すぎると足下の短期業績にダメージを与えますし、遅すぎるとアンコトローラブルに陥ります。とてもデリケートな問題です。

一方で現在進められている第7次エネルギー基本計画の議論では、「S+3E(経済性、安定性、環境性)」の考えの下、省エネや低炭素化に向けた天然ガスシフトの波を維持しながら、e―メタン(合成メタン)の利用を含む脱炭素化への移行に向けた政策がさらに加速するものと想定されます。

今後も、当分の間、エネルギー事業は当社の中核であり続けます。エネルギー需要は先細りだと手をこまねいているわけにはいきません。産業分野において、これまで価格競争力の観点からマーケットとして見ていなかった石炭からガスへの燃料転換を推進するなど、新たな需要を喚起する余地は十分にあります。

省エネ・省CO2、BCP(事業継続計画)対策に貢献するガスコージェネレーションシステムや電力のピークカットにも有効なガス空調の普及拡大、エネルギーサービスや省エネ診断などのソリューション営業を通して、ベストミックスの視点から、さらなる需要拡大を目指します。導管延伸が困難で導管網の未整備地区では、ローリー輸送によるLNG供給での燃料転換を推進。デジタル化やサービス・料金メニューの多様化などにも注力し、エネルギーを軸とした顧客接点強化を図っていきます。

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