このままでは職場が持たない! 電力産業を支える人材をどう守る【浜野喜史×山本隆三】
【〈電力事業の現場力〉政・学特別対談】
自由化の下で安定供給が維持されているのは、現場で働く「人」の努力の賜物だ。
浜野喜史参議院議員と山本隆三常葉大名誉教授が人材の維持・確保に向けた課題を語り合った。
─本誌では電力総連を構成する14の労働組合を回り、現場の悩みや苦労を連載として掲載しました。
山本 各電力によってそれぞれ課題がありますが、共通しているのは現場力の維持に苦労しているということです。連載を読んで、この課題を乗り越えないと日本の電力産業は持たないのではないかという危機感を強くしました。
浜野 電力会社だけでなく、電気工事や電気保安といった関連分野でも、職場の皆さんはそれぞれの持ち場で懸命に働いています。ただ、人材不足や技術継承など、このままで本当に将来的に職場が持つのか不安はあります。

山本 人材維持に苦労しているという話は、あちこちで耳にします。私は香川県出身ですが、一昔前は高校で一番成績のいい人が都市部の大学を出て四国電力に入社していました。でも最近は、電力会社が第一志望として選ばれることが少なくなってしまった。地域を支えているのは電力会社ですから、由々しき事態です。ちなみにアメリカではデータセンターが増えることで、将来電気技師と機械技師が40万人不足する可能性があるそうです。日本もそういう事態に陥りかねません。
浜野 データセンターや発電所を建設しようと思ったところで、「人」がいなければ建てられませんからね。
コストカットの弊害あらわ 反省なきシステム改革検証
山本 2月に埼玉県八潮市で下水道管の棄損に起因する道路陥没事故がありました。悲惨な出来事でしたが、電力産業でも現場力が維持されなければ、将来的に停電が頻発するかもしれません。第7次エネルギー基本計画では安定供給の重要性が強調されましたが、それを支える人材の意義をしっかりと位置付け、処遇することが大切です。

浜野 日本経済全体が、さまざまなコストを下げることに重きを置き過ぎていました。その結果、給料は上がらず、将来を見据えた現場力の維持や成長に向けた観点が置き去りにされてしまった。最近では価格転嫁の重要性が理解され始めましたが、ようやくといった感じです。
山本 アメリカの電力会社の給料を見るとびっくりしますよ。原子力発電所のオペレーターは高卒学歴のケースで、年収は1500万円を超えています。火力発電所はそれよりちょっと少ないくらいです。アメリカは物価が高いと言われますが、都市部のホテルやレストランこそ高くても、郊外のスーパーなどに行くと日本とそこまで変わりません。それでこれだけの給料をもらえるなら「電力産業で働こう」と思えますよね。
浜野 日本では、電力会社のようなインフラ企業の給料が上がるのはけしからん! という理不尽な声もちらほらあるように感じます。
山本 電気料金に占める人件費はごくわずかで、ほとんどは化石燃料の燃料費と設備の減価償却費です。現場の給料が上がることで人材が確保され安定供給が確保できるなら、それに越したことはないでしょう。
─現場力の維持が困難になった原因は何でしょうか。
山本 少子化の影響もありますが、やはり自由化で電力会社の体力が落ちたことが大きいと思います。人材や設備に投資できなくなってしまい、そのしわ寄せが現場にきています。
浜野 電力システム改革については、職場の皆さんからも「これで良かったのだろうか」という声を多くいただきます。ただ垂直一貫体制に戻ることはないと割り切った上で、安定供給を実現するために必死に働く姿には改めて敬意を表します。
山本 経済産業省の電力・ガス基本政策小委員会では、電力システム改革の検証が行われました。検証結果を読みましたが、中身はスカスカですね。課題は出てきたが、方向性としては間違っていなかったという結論になっています。需給ひっ迫や自由料金と経過措置料金の逆転、新電力の経営悪化などは、自由化が引き起こした問題です。
1 2