【コラム/3月18日】米国における原子力発電に関する世論動向

2025年3月18日

矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

前々回のコラムで原子力発電を支持する世論が世界的に増大していることを述べたが、本コラムでは、原子力発電に対する好意的な世論が記録的な高さを維持している米国に焦点を当て、その実態を紹介したい。

Bisconti Research(2024年5月)によれば、 米国では原子力発電に関する賛否は、40年前にはほぼ半々だったが、その後、賛成が反対を上回り、その差は拡大してきた。この傾向は2021年以降顕著となっており、2024年の調査では、77%対23%と賛成が反対を圧倒した(「強く」と「やや」を含む)。また、同調査では、原子力発電の運転ライセンス更新と新設に関する支持は、2021年以降過去最高レベルに達していることもわかった。連邦政府の安全基準を満たした原子力発電の運転ライセンス更新に対する支持は、2021年の86%から2024年には88%に上昇している。また、原子力発電所を「確実に」(“definitely”)新設することに対する支持は、2021年の69%から2024年には71%に増大している。

さらに、2024年の調査では、原子力発電に対する支持は、同電源に関する知識が深いほど高まることが示されている。このことは、これまでの調査結果とも合致している。原子力発電に関する知識が乏しい回答者では64%がその利用を支持しているのに対して、知識が豊富な回答者では88%が支持している。また、性別も原子力発電に対する賛否に関連している。男性の86%が原子力発電を支持しているのに対し、女性は70%であった。世代と原子力発電に対する賛否との関連については、ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)の75%を除き、その他のすべて世代、すなわちベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)、ジェネレーションZ(1997~2012年生まれ)、ジェネレーションX(1965~1980年生まれ)で支持率は約80%であった。

Bisconti Researchの調査では、学歴との関係についても示されている。大学卒業生の 82% が原子力発電を支持しているのに対し、大学を卒業していない回答者では支持は74%であった。また、支持政党では、共和党支持者と自認する回答者の 85% が原子力発電を支持しているのに対し、民主党支持者と自認する回答者では支持は78%であった。さらに、原子力発電に対する態度が最も肯定的な地域は、北東部と南部で、それぞれの支持率は79% と 78%であった。また、西部では 75%、中西部では 74% の支持率であった。

なお、地域における原子力発電に対する賛否については、ミシガン大学の研究者が2008年から2023年までのソーシャルメディアプラットフォームX(旧Twitter)上の米国の位置情報付き投稿126万件を分析し、2024年8月に発表した論文で、州ごとの結果を示している。それによれば、50州のうちアラスカとデラウェアを除く48州の人々は原子力発電に関して否定的よりも肯定的な態度をとっていることを明らかにしている。

Bisconti Researchの調査では、原子力の利用に関して、77%対23%と賛成が反対を圧倒していることを述べたが、そこには、「強く」と「やや」が含まれている。強く賛成する人は32%、強く反対する人は6%と、前者は後者の約5倍に上るが、やや賛成とやや反対が全体の62%を占めている。これらは、どちらかと言えば中間派とも言えるわけで、ある出来事で意見が容易に変化しうるグループと考えられる。わが国でも、米国における原子力利用に対する支持の高さが紹介されることがあるが、このように移ろいやすい意見が大半であることにも注目する必要がある。

また、同調査では、上述したように原子力発電に対する支持は、同電源に関する知識が深いほど高まることが示された。前々回のコラムでも、原子力発電に対する世界的な世論動向に関するSavantaの調査結果を紹介する中で、調査対象20か国全体で、同様の結果が得られていることを述べた。原子力PAの改善のためには、原子力技術の知識基盤の拡大と国民への教育が、必須条件といえるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。