【コラム/3月24日】激動の2024年度から実行の2025年度へ
さらに、調整力を高度化していくために、ヒートポンプ給湯機と家庭用蓄電池に通信機能と外部制御機能といったDRready要件を満たす機器が市場投入されるよう、メーカ側に目標設定させる施策も具体的な要件づくりが進められており、ヒートポンプ給湯機においては、29年度以降の市場投入が予定されている。その他、調整力として活用が期待される蓄電池においては、長期脱炭素電源オークションによる制度的措置や補助金が適用されている系統用蓄電池の接続申込が約9,500万kW(24年12月末)となっており、これらを全て接続検討して、送変配電設備の増強を行えば、多額の工事費と長期間の工事を要することとなり、事業の進展に影響を及ぼす。そのため、この4月より特定の断⾯(時間帯)における充電制限に同意することなどを前提に、系統増強することなく系統接続を認める対策(早期連系追加対策)を導入すべく、制度設計が進められている。需要側にはウェルカムゾーンマップがあるが、系統用蓄電池においても同様に情報提供することで、円滑かつ最適な接続ができるよう促していくことが必要だが、他の需要、例えばデータセンターとの適地奪い合いや土地の空押さえ、権利転売など、FIT制度が始まった頃に起きたような事象がないよう留意が必要である。
そして小売では、引き続きリスクヘッジや資金管理といった事業者自らの運営に係るものと、需要家保護に資する対外的な取組の双方を、ガイドライン遵守や定期報告提出といった形で対応していくこととなる。
現状、卸市場価格連動型のメニューが増えているが、それだけでなく、託送料金のピークシフト割引や季節・時間帯別の市場価格の特徴を活かしたメニューなど、電力需給の最適化を促すためのメニューの開発・提供が進められることが期待されている。そのためには、以前から省エネ小委員会で議論されているエネルギー小売事業者への間接規制(DRや需要最適化を促すメニューの提供、省エネ機器導入支援、非化石転換の支援といったサービスの提供目標の自主的設定と報告)と補助金が採用されやすいインセンティブを組み合わせた制度的措置について、真剣に考え始めた方がよいかもしれない。
小売事業の原価の多くを占める電源調達も、旧一般電気事業者の内外無差別な卸売のコミットメントがなされてから、入札やブローカ取引、個別協議などの方法で、単年度・長期・期中といった様々なタームでの取引ができるようになっているが、24年度に行われた取引については25年度上半期にフォローアップを行う予定で、そこで、まだ内外無差別な評価が出ていない、東北、東京、中部の扱いがどのようになるか、また、これまでの取組の実効性評価などが焦点になると想定される。足元では、多様かつ柔軟な取引が可能になるよう、エリア内限定供給について議論が進んでおり、内外無差別の進展と効果次第では、ルールや考え方の見直しも行われる可能性は十分にある。その点は、電力システム改革検証を踏まえた制度改正の議論に持ち越されることだろう。
もう1つの原価である託送料金については、レベニューキャップの第1規制期間の期中であり、まずは現行計画の着実な進展をチェックすることが優先されるが、一方で、上述したような再エネ大量導入やデータセンターなどの局地的大規模需要の接続に対応するための設備増強や、調整力確保、多発・激甚化する自然災害への対応など、非常に課題が多い。さらに、一般担保付社債の発行ができなくなる中で、資金調達や事業収益の確保、投資決定を行う必要があることを考えると、いまの託送制度が最適であるとは言い難い。次の料金改定は28年度になるので時間の猶予はあるが、それでも少しずつ準備は必要になる。設備投資が増えていく中で、一定程度の値上げはやむを得ないだろう。
なかなか終わりの見えない制度設計
筆者は毎年、その年度を起点に50年までの制度設計や運用のロードマップを描き、取引先のレポートで報告をしているが、「そろそろ制度設計も落ち着くだろう」と思いつつ、線表をローリングさせると、まだ多くの施策が起点の年度に色濃く書かれ、終わりが見えない状況にあることが続いている。 もちろん、政策や制度において、国内外の環境変化や実際の運用で不具合や新たなニーズが見つかれば見直していくというPDCAを回していくことは当然のことにはなるが、複雑怪奇、かつ同時並行的に進展する今の仕組みを、果たして関係する事業者、さらにはエネルギーを利用するユーザーはどこまで理解できているのだろうか、また、自分ゴトとして扱い切れているのか、このあたりの自問自答は、まだまだ続くだろう。
【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。