【特集2/座談会】CO2削減に即効性ある選択肢 実用化に向けた官民連携を強化

2025年4月3日

SAF競合で調達に懸念 国産化を阻む複数の事情

小島 今後、世界中でバイオエタノールが増えて奪い合いになった時、日本が安定調達できるかが危惧されます。

森山 現状では、バイオマスの量が限られているので、量の確保や価格の安定化への懸念があります。

福田 ブラジルではサトウキビからバイオエタノールを作っており、最近では大豆の裏作の二毛作として植えたトウモロコシからも作るようになりました。日本には、石油化学プラントで複製されたイソブテンとバイオエタノールを合成した「ETBE」としてアメリカから輸入されていますが、原料エタノールの4割ほどがブラジル産、6割ほどがアメリカ産です。一方で、SAF(持続可能な航空燃料)の原料にもバイオエタノールが使われています。

小島 全量がSAFに使われてしまうとしたら懸念事項ですね。

森山 SAFの導入は、国際的な枠組みの中で決められていて、航空会社にはCO2削減のためという縛りが強くなっています。自動車にはEVといった他の選択肢がありますが、SAFはどうしても優先度が高くなります。

福田 国内では、出光興産などがバイオエタノールを輸入して、SAFを製造する動きがあります。今は世界的に見ても廃食油から製造されるSAFが主流ですが、廃食用油などの量には限界があるので、今後はバイオエタノール由来のSAFも増えるでしょう。

小島 ちょうどE10やE20が流通し始める時にSAFが実用化を迎えるとなると、量の確保は大丈夫でしょうか。

森山 アジアでは、まずは自国のために使って、他国に輸出する余力が出るのは少し先だと思います。タイは一時、E85が導入されましたが、補助金がなくなってからは頭打ちです。インドでは、バイオフューエルのアライアンスを作り、いろいろな国と普及に取り組んでいます。一方で、ブラジルはサトウキビを絞った後のバガスのエタノール化に力を入れています。これにより、生産量が増え、エタノール1ℓ当たりのCO2排出量を少なくできます。また、製造設備をエタノール工場に併設してユーティリティーを共有化し、低価格化を進めています。

小島 日本も国産化を検討すべきでしょうか。

福田 以前、農林水産省の実証事業で米や小麦などからエタノールを作ろうとしましたが、価格が高くなる点が問題でした。セルロース系原料からのエタノール製造についても技術開発が行われていますが、まだ商用化には至っていません。最近では、製紙業界が紙の需要が減って余ったパルプでエタノールを作ることを検討したり、積水化学工業は廃棄物からエタノールを作ろうとしています。ただ、国内で賄える量を全て国産で作るのは難しいと思います。

森山 米の場合、デンプンから糖を作って発酵させる技術は古くからあるので、転換プロセスに大きなコストはかかりませんが、原料費が高いです。一方、セルロースの場合、廃棄物原料を利用して、コスト低減の努力がなされていますが、転換プロセスにも追加の工程が入り、コストが高くなります。

小島 国内の遊休農地に米を作付けすれば、必要量の半分ほどを賄えると言う試算があります。

森山 耕作放棄地には、日照条件が悪かったり、土壌が低質といった事情があります。また小さな土地が分散してあると、効率的に収穫できず、収集する輸送コストも上がります。

「つなぎ」として有効活用 合成燃料との混合も可能

小島 では、サプライチェーンに向けて、商社や石油元売りの動きはどうでしょうか。

福田 現状、バイオエタノールはガソリンの消費量に対して平均で2%未満しか使われていないので、E10を作るには、5倍以上の量を調達しなくてはなりません。また、製油所での受け入れタンクや混合する設備が必要になり、SS(サービスステーション)も対応することになります。脱炭素燃料政策小委員会での議論を受け、合成燃料の導入促進に向けた官民協議会の下にタスクフォースを立ち上げ、石油元売りや自動車メーカーに加え、SS、計量機、ローリーなどの流通インフラの事業者も含めて、E10、E20実現に向けた検討を始めました。そのタスクフォースで5月までにアクションプランを作る予定です。

小島 先日、SS事業者に向けに講演した際、E10、E20が出てきたおかげでSSが生き延びられたという希望の声を聞きました。要するに、EVに変わると、仕事がなくなるわけです。その一方で、バイオエタノールを選択肢として残してもコスト面が課題ですね。

福田 タスクフォースでは、その点も議論することとされています。例えば、バイオエタノールの直接混合ガソリンを導入する際には、地下タンクを空にして洗浄したり、コーティングする費用もかかります。また工事中は休業しなければならず、SSの負担は少なくありません。

森山 サプライチェーンを考えると、SSの廃業は地域性があります。そのため、地方でSSが廃業すると、その地域ではEVの方が充電しやすくて活躍するかもしれません。

小島 アメリカ中西部のように、誰もEVに乗っていない地域もありますよね。

森山 アメリカも州ごとに特徴があって、先日行ったカリフォルニア州ではEVがかなり走っていました。アジア、欧州でも地域ごとにEVとガソリン車のどちらが売れるのか、販売戦略が違います。そのため、多様性が求められると思います。

福田 森山さんが最初におっしゃった即効性を生かし、液体燃料を「つなぎ」として残しておけば、将来、合成燃料が入ってきたとしても、バイオエタノールは引き続き、混ぜることができます。例えば、合成燃料80%とバイオエタノール20%の混合も不可能ではありません。

小島 日本が得意とする内燃エンジンはなくならないですね。

森山 選択肢としておくべきです。一方で、合成燃料は原料となる水素の製造でコストがかかっているので、その部分を安くする技術革新が求められますね。

消費者の認知度は低いまま 環境価値の可視化が必要

小島 私が消費者向けに行った講演では、バイオエタノールを知っている人がほぼゼロでした。消費者やユーザーへの認知も課題です。

福田 ETBEの販売開始当初は、SSに「バイオガソリンを供給しています」といったのぼりを立てていましたが、今はのぼりもなく、消費者は知らずに購入しています。現状では、例えば、物流業者がETBE混合ガソリンを使っても、通常のガソリンと同じ扱いです。今後は、ガソリンに含まれるバイオエタノールの量に応じてCO2削減効果を可視化して環境価値としていく議論が必要です。もう一点が安全面での認知です。将来、E10が供給されるようになって、非対応車に給油してしまうケースも考えられます。給油してからしばらく乗らず、タンクにガソリンが入ったまま放置されると、部品の劣化などの恐れがあります。給油口の裏に表記ラベルが貼られていますが、誤給油による車両故障などが消費者の自己責任になるのかも含め、制度側の対応も必要になります。

小島 可視化することで、価格の上昇も考えられますね。

福田 ETBEが数%しか入っていない状況であれば、利用者が広く負担する形でもいいと思います。ですが、E20になって値段が高くなると、環境価値を感じる人が負担することが望ましい姿です。

森山 最近、トラックや重機へのバイオディーゼルの使用が、工事を受注する際の入札の加点要件になっているという話を聞きました。ユーザーが企業だった場合、環境価値の高いものを選ぶ可能性がありますが、一般消費者に選んでもらうには工夫が必要だと思います。

小島 最後に、今後の展望や課題についてお聞かせください。

福田 今は石油元売りがETBEをまとめて調達している状況です。しかし今後、E10、E20を全てエネルギー供給高度化法の義務とするのか、もしくは最低ラインの義務を課しつつ、自主的にプラスαで取り組むのかを考えていくことも必要です。

森山 エネルギー安全保障として、量と価格が安定したバイオエタノールを調達する必要がありますが、本来の目的である温暖化対策として、製造・輸送に関わるCO2排出量が低い、いわゆる炭素強度が低いものが求められます。アメリカやブラジルにおいても炭素強度の低減が進められているので、これらの動向を見つつ、可能な限り国産の寄与を進めていくことも重要かと思います。

小島 日本では法律上の壁も含めて考えていかなければいけない課題がまだ多くありますね。本日はいろいろなお話をありがとうございました。

国内でE7ガソリンを販売するSS

こじま・まさみ 1951年生まれ。愛知県立大卒業後、毎日新聞社入社。東京本社・生活報道部で主に食の安全、環境問題を担当。現在は日本バイオ作物ネットワーク理事として参画。

もりやま・りょう 2001年北海道大学大学院工学研究科学位取得(物質工学専攻)後、IAE入所。10年からバイオマスを中心とした再エネ関連プロジェクトを実施。20年から現職。

ふくだ・かつら 2000年東大大学院工学系研究科修了。同年、三菱総研入社以来、バイオ燃料を含む国内外の脱炭素燃料の政策・市場動向などの調査・コンサルティングに従事。

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