【電力中央研究所 平岩理事長】持続可能な未来に向け 研究成果を創出し社会実装を目指す
志賀 具体的にはどんな取り組みが求められますか。
平岩 変動性再エネの出力変動や予測誤差に対応する調整力を確保し、運用する必要があります。そのために、バックアップ電源や需要対策、長周期の蓄電・蓄エネルギーと、kW時面での燃料調達の柔軟性が求められます。特に、他国と送電線やガスパイプラインがつながっていないわが国は、供給力と調整力、系統安定化に必要な慣性力などの確保が重要となります。この点でも火力発電の役割は大きく、各機能の価値を市場や制度で適切に評価し、必要容量を確保する必要があります。
また変動性再エネや蓄電池などの非同期電源の大量導入に際し、火力発電などの同期電源が提供してきた慣性力や同期化力などの系統安定化機能の技術開発と検証も重要になります。
志賀 需要側の取り組みも重要です。
平岩 エコキュートなどヒートポンプの昼間シフトなどで需要側の柔軟性を高めることが重要です。このためには、蓄エネ機器の性能向上と低コスト化や、新しい料金メニューなどが求められます。また、CN実現に向けて重要な取り組みである産業プロセスの電化や、将来的に余剰電力を活用した水電気分解による水素製造などでの電力需要の創出は、再エネ出力抑制を極力回避する観点からも有効です。
自由化の課題克服へ 国情に合った制度を
志賀 電力システム改革の検証結果が公表されました。昨年2月には電力・ガス基本政策小委員会でのヒアリングに有識者の一人として参加されましたが、結果をどう見ますか。
平岩 安定供給を確保し、電源の脱炭素化を進め、レジリエンスも高めるため、必要な供給力と調整力などを確保し、次世代電力ネットワークを構築する。そのためには電源と送配電の双方の投資を促す必要がありますが、電力自由化に加え、再エネの大量導入により火力発電の稼働率が低下する中でこれを進めるには、市場メカニズムを補う措置が別途必要という点で委員や有識者の考えはおおむね一致していました。

わが国に先行して電力自由化を進めた欧米でも、市場競争と事業環境の変化の中で供給力不足に陥り、イギリスの総括原価的な制度の導入など新たな措置が講じられています。わが国も欧米の事例などから学びつつ、国情に合った持続可能な電力システムのあり方を不断に検証し、問題が生じた場合は速やかに修正することが必要です。
電源や送配電の投資は、巨額の初期投資と長期の建設リードタイム、投資回収期間を要し、費用の上振れリスクなども今後想定する必要があります。こうした中で必要な投資を進めるには、ファイナンス面にも考慮した投資回収の予見性と、最終的に費用を負担する国民の理解が不可欠です。また電力産業の現場力維持のため、人材の確保と定着に向けた人への投資も非常に重要です。