日本の「脱原発」は論外! エネ安保の確立へ冷静な議論を【石川和男×近本一彦】
【日本エヌ・ユー・エス】
第7次エネ基が閣議決定したが、日本のエネルギー安全保障の確立は一筋縄ではいかない。
社会保障経済研究所代表の石川和男氏と日本エヌ・ユー・エスの近本一彦社長が語り合った。
近本 今日は石川さんとお話しできるということで、楽しみにしてきました。
石川 こちらこそ。社名の一部になっているエヌ・ユー・エス社というのは、もともとアメリカの会社ですよね。
近本 そうなんです。1960~70年代、日本が原子力の活用に向けて動き出した頃、商用炉を始めるのに十分な知見がありませんでした。そこでアメリカの原子力専門企業だったエヌ・ユー・エス社の総合代理店として、日揮とエヌ・ユー・エス社が45%、東京電力が10%出資をして71年に設立しました。97年には日揮が全株式を買い取り、日本企業となりました。
石川 アメリカの原子力規制委員会(NRC)など海外の原子力の動向を調査しています。

近本 原子力規制に限らず、エネルギー・環境に関するあらゆる情報提供やビジネス支援などのサービスを行っています。NRCではどういう審査や検査が行われているのかといった情報を、日本の事業者に提供するのも仕事の一つです。
石川 政府は2月、原子力を最大限活用する方針にかじを切った第7次エネルギー基本計画を閣議決定しました。御社の役割がますます高まりそうです。
「再エネ主力電源化」削除を 石炭火力は極めて重要
近本 その第7次エネ基ですが、どうご覧になりましたか。
石川 今の情勢を考えれば、「再エネの主力電源化」以外は高く評価できます。特に原子力はほぼ満点でしたね。気が早いですが、第8次エネ基は再エネ主力化を削除して、堂々と「火力が主力」と書けばいい。そうせざるを得ないんですから。
近本 それが本当の現実路線ですね。
石川 アメリカのトランプ大統領がパリ協定からの再離脱を表明しました。再エネの限界をアナウンスする効果としては絶大です。日本はこれを「悪用」しなければなりません。2050年カーボンニュートラルを金科玉条にせず、政策転換に向けて動き出すべきです。
近本 特にASEAN(東南アジア諸国連合)などの新興国は石炭火力に頼らざるを得ません。AZEC(アジアゼロエミッション共同体)などの枠組みを活用して、日本が誇る高効率の石炭火力技術を生かすべきです。当社は国際協力銀行の案件でASEANでの環境アセスメントなどに携わっています。ただ、石炭火力はESG(環境、社会、企業統治)投資の観点で金融機関の融資を受けにくい。

石川 でも3月に入り、三井住友フィナンシャルグループ(FG)と三菱UFJFG、野村ホールディングスが脱炭素を目指す国際的な金融機関連合NZBA(ネットゼロ・バンキング・アライアンス)からの離脱を表明しました。「遅い!」と言いたいところですが、CN政策の転換期であることは間違いありません。
近本 日本がアジアの経済成長と低炭素化に果たせる役割はとても大きいので、そうした動きを歓迎します。
石川 大体、GHG(温室効果ガス)を削減できなかったからといって、一部の国から叩かれるだけです。経済制裁を食らうわけではありません。逆に言えば、日本がオントラックでGHGを削減しても、「すごいですね」と褒められておしまい。賞金はもらえません(笑)。
オイルショック時と同じ 経済安保から見た原子力
近本 厳しいエネルギー安全保障環境下でGHG削減を目指すのは、オイルショックの時と状況が似ています。まず無駄にエネルギーを使わないように省エネを実施し、石油の調達先の多元化を目指した。さらに石油代替エネルギーの研究開発として、純国産エネルギーである原子力、天然ガス、再エネの導入を打ち出しました。
石川 ムーンライト計画やサンシャイン計画ですね。
近本 でも、再エネはエネルギー変換効率が悪く、思ったほどの効果を上げられなかった。
石川 再エネを過度に推進する人たちは「原子力より再エネの方が簡単」とよく言います。でも系統に乗らない太陽光は、いくら敷き詰めても安定電源にはなりません。そこで蓄電池の必要性が強調されるのですが、第7次エネ基には「再生可能エネルギー及び蓄電池によって火力を完全に代替することは難しい」と書いてあります。
1 2