日本の「脱原発」は論外! エネ安保の確立へ冷静な議論を【石川和男×近本一彦】

2025年4月6日

近本 太平洋戦争とオイルショックを経験した島国の日本は、常に安全保障を念頭に政策を考えなければなりません。近年では経済安全保障という概念がクローズアップされていますが、エネルギー分野でも高い技術を保持して、他国との比較優位性を保つ必要がある。こういう観点からも原子力を手放すという選択肢はあり得ません。

石川 マスコミはよく「核燃料サイクルは破綻している」と書きますが、そんなことはありません。これまでは再処理をフランスやイギリスに委託していただけで、原子力規制委員会の審査を経て六ケ所再処理工場が稼働すれば、膨大な使用済み燃料を資源化できます。

近本 再処理には余剰プルトニウムの削減という課題があります。プルサーマル発電を進めてMOX(酸化化合物)燃料を使っていかないと。

石川 日本がプルトニウムを持つのはエネルギーのための平和利用です。アメリカを上手く手懐けながら再処理を続ける強かさがなければ、日本のエネルギー安全保障は確保できません。


定検期間の見直しを 中小企業の技術を残せ

近本 まずは既設炉の再稼働ですね。

石川 効率的に稼働させる必要があります。定期点検の間隔を現在の13カ月から、24カ月にするだけで稼働率は大きく改善する。今は約1年に1回、運転を止めていますが、点検料を倍にしてもいいので24カ月にすべきでしょう。2年間は発電させてほしいと言うのです。

近本 もう海外はオンラインメンテナンスで、計画的に長い期間、運転を止めることはありません。状態を監視し、音や振動など普段と違う兆候が出たらその都度、不具合がないかを確認します。順調に稼働している最中に止める必要はない、というのが欧米人の考え方です。運転期間については、アメリカは80年運転の認可が下り始めました。将来的には100年運転に進むでしょう。

海外での原子力技術展示会

石川 3・11後の全基停止や特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限問題に通じる話ですが、相変わらず日本人はリスクを定量的に判断するのが苦手です。特重なんて、津波が原因だった福島第一原発事故とは無関係の施設ですからね。施設を作るのはいいですが、運転を止める必要性はない。

近本 合理的に考えれば、多額の資金をかけなくても重大事故は防げます。それにもかかわらず、原発が1基立つような莫大な費用をかけて安全対策工事を行わざるを得なくなってしまいました。これは国家的にも大きな損失です。

石川 技術的に難しいのが再エネ、政治的に難しいのが原子力です。でも、より難しいのは前者です。当時の野田佳彦首相が12年に政治判断で大飯原発を再稼働させたように、原子力政策の遅滞は政治力で打破できる。法律を作れば、経済産業大臣に運転命令権限を与えることだって可能です。手をこまねいている時間はありません。

近本 将来を見据えて、日本の原子力産業を維持し続ける必要があります。原子力技術の国際的な展示会に行くと、日本エリアのブースは寂しいですよ。

石川 出展していませんか。

近本 参加しているのですが、フランスなどに支社を持っているので、その国のブースで展示しています。〝日本丸〟ではなく、他国の動き乗じて売りに出る戦略です。日本は原子力大国として世界に売り出す力があるのですが、リーダー不在の状況です。日本の中小企業が生き残るために、技術が海外で売れるような仕組みを作る必要があります。当社はこうしたお手伝いもしています。

石川 原子力の未来のために、日本エヌ・ユー・エスの活躍に期待しています。


いしかわ・かずお 東大工学部卒、通商産業省(当時)入省。内閣官房企画官、政策研究大学大学院客員教授などを歴任し、社会保障経済研究所代表。テレビ・ラジオ番組に多数出演。

ちかもと・かずひこ 1986年東海大学大学院工学研究科修了、日本エヌ・ユー・エス入社。2009年リスクマネジメント部門長、14年理事・新ビジネス開発本部長、15年取締役、20年より現職。

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