【コラム/4月14日】欧州水素銀行とH2Globalに関する最近の動向

2025年4月14日

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

欧州委員会は、グリーン水素の調達戦略として、2023年3月に、イノベーションファンドを用いてEU域内外の水素バリューチェーンへの民間投資を呼び込むことを目的とした「欧州水素銀行」の構想を発表した。同年11月には、欧州委員会はEU域内の製造事業者に対して、第1回のオークション(パイロットオークション)の入札を開始し、入札結果は、2024年4月に発表され、スペイン3事業、ポルトガル2事業、ノルウェー、フィンランド各1事業の合計7事業が選定されている。また、ドイツでは、2021年6月に、グリーン水素およびその派生物の国外からの調達のために「H2Global」が設立され、2022年の12月から、グリーンアンモニアなどの水素デリバティブに焦点を当てて、第1回目のオークションの具体的な活動が始まった。昨年7月12日のコラムで欧州水素銀行とH2Globalに関してこのような動向を紹介したが、本コラムではその後の展開について述べたい。

まず、欧州水素銀行についてであるが、第2回のオークションの入札が、欧州経済領域 (EEA) 内のプロジェクトを対象に、2024年12月に開始され、今年2月に終了している。EEA内の11か国のプロジェクトから61件の入札があった(予算総額は最大12億ユーロ)。また、2024年11月には、スペイン、リトアニア、オーストリアは、第2回オークションの一環として「オークション・アズ・ア・サービス」(”auction-as-a-service”: AaaS)スキームに参加し、落札できなかった自国にあるグリーン水素生産プロジェクトを支援するための7億ユーロを超える国家資金の提供を発表している。今年の5~6月頃に入札の評価が行われた後、入札結果が発表される予定である。

つぎに、ドイツのH2Globalであるが、第1回のオークション(予算総額は9億ユーロ)のうち、グリーンアンモニアに焦点を当てたロット1に関して、入札結果が昨年7月に発表された。65か国以上から数百の事業者が入札書類をダウンロードし、入札への関心の高さが示された。資格審査で5つの事業者に絞られ、落札したのは、UAEのアブダビを本拠地とするFertiglobeで、エジプトのグリーン水素プロジェクトからグリーンアンモニアを製造する。このプロジェクトには、100 MW の電解設備、203 MWの 陸上風力発電プラントおよび 70 MW の太陽光発電プラントの建設が含まれる。欧州への受け渡しは、2027年に19,500トンが、また2033年までに累計で最大397,000トンが予定されている。契約価格は、1,000ユーロ/トンであった。

グリーンメタノールに焦点を当てたロット2は2024年中に結果が発表される予定あったが、現在までのところ、入札実施主体である「Hintco」(H2Global財団の100%子会社)から公式なアナウンスメントは出ていない。また、e-SAF を対象としたロット 3 は、e-SAFに関する規制の不確実性が存在していること、ロットのサイズが小さく契約期間が短いため、投資の収益性が確保できないと事業者が判断したことなどから、契約が締結されることなく終了した。ロット 3 に配分された資金はロット 2 に再配分される。

Hintco は、昨年12月に最大30億ユーロの予算で、H2Globalの第2回オークションを実施することを発表し、今年2月にオークションの最初の段階が開始された。オークションは、申請段階、交渉段階、入札段階、評価・落札者決定段階からなるが、入札提出の最終時期は2026年3月と想定されている。第2回のサプライサイドのオークションは、5つのロット(アフリカ、アジア、北米および南米・オセアニアの地域ロット4つとドイツ、オランダおよび制裁対象国を除くグローバルロット1つ)に分かれている。地域ロットでは、すべての製品(水素、アンモニア、メタノール)を対象に入札を行い、グローバルロットでは水素に焦点を当てた入札を行う。地域ロットには最低 4 億 8,400 万ユーロ、グローバルロットには最低 5 億 6,700 万ユーロが割り当てられる。予算総額は、最低でも 25 億ユーロが確保されているが、最終的には議会の承認により30億ユーロまで増加する可能性がある。グローバルロットは、ドイツとオランダの両政府が共同で資金を提供する。

以上のように、H2Globalの第2回オークションでは、地域ロットで、調達地域の多様化を確保しつつプロダクトオープンとし、グローバルロットで、水素にターゲットを絞った調達を確保しつつベクターオープンとしている。第1回オークションと比べると調達の仕組みに一層の工夫がなされていることが分かる。また、2023年5月には、H2Globalが欧州水素銀行のEU域外からの水素輸入で連携することを欧州委員会のエネルギー担当委員から発表されており、EUは域外からの水素の調達に関して一体的に取り組むことになった。現在、欧州委員会は、水素の国際的な調達に関してオークションのコンセプトを策定中であるが、欧州水素銀行とH2Globalでは異なる入札メカニズムが用いられており、どのようなメカニズムが採用されることになるのか注目される。わが国では、水素および水素デリバティブの調達に関するサプライチェーンの構築を今後本格化していく必要があるが、EUやドイツでの経験や議論は参考になるところが多いと思われる。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。