【コラム/5月20日】2025年度のGX・DX政策を解説
加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長
2025年度が始まり、既に2カ月が経とうとしている。前回のコラムでは24年度の政策や制度設計について振り返り、25年度に着目する制度の話をしたが、今回は、この2カ月間の動きを見た中で、GX・DX政策について解説したい。
年度当初ということもあり、まだ審議会の開催件数は低調だが、今後、6月以降、活発化することも予想されることから、引き続き注視していくことが求められる。
産業立地政策からスタート 産業創出の好循環を目指す
2月に閣議決定された「GX2040ビジョン」において挙げられた論点のうち、GX産業立地政策の具体化に向けた検討が着手された(GX産業構造実現のためのGX産業立地ワーキンググループの設置)。ビジョンで記載した産業立地と投資促進を深掘りし、参加する委員から政策形成の助言を求め、さらに実施すべき詳細な施策の在り方と制度設計を議論していくとしており、今後、夏頃を目途に取りまとめが行われる予定となっている。
目指すGX産業の姿は、AI、ロボット、ペロブスカイト太陽電池、革新蓄電池、グリーンスチール、半導体といった革新技術を生かした新たな産業創出と、脱炭素エネルギー利用・DX促進によるサプライチェーンの高度化とし、そのためには、①競争力強化に資する企業への支援(設備投資へのインセンティブ、制度改善など)、②立地を促すインフラ設備(産業用地確保、電力・通信インフラ整備など)、③脱炭素電源・データセンター整備(ワット・ビット連携など)を同時・連関的に実行していくことが重要としている。いわば、大きな成長を見込むことができる分野とそれを野心的に進める企業などに集中的に支援を行い、そのために必要な立地確保やインフラ整備、さらには投資を促す支援や税制優遇、規制緩和などを措置し、「世界で勝てる産業」「新たな日本の十八番」を創出していくことを図る構想であると想像される。
戦後に日本の高度成長期はコンビナートや工業団地、港湾に支えられてきた経緯があるが、今後検討される立地施策で生み出される新たな「場」が、次の時代を支える産業をリードしていくことが期待される。そして、そこで製造された製品やそれらを使ったサービスが新たな価値として提供されるという好循環につながることで初めて、GXの成果が出たと言えるだろう。
データセンター立地 順調に進むのか
そうした中、着目されるのがDXの推進となっている。生成AIの発展が目覚ましいこと、デジタル赤字が年間で約7兆円(24年)という状況、データセキュリティ確保が必要なこと、そして低遅延性といった観点から、国内に計算資源を整備する必要があるとして、データセンターの整備の重要性が叫ばれている。
一方で、データセンターは膨大な電力を消費することから、そのために必要十分な供給力と系統の双方を確保しなければならない。供給力については脱炭素電源が志向されているが、現状、東京圏と大阪圏にデータセンターの多くが集中する中で、原子力発電や太陽光発電・風力発電といった再エネの適地が偏在していることから、単純に考えれば、長距離送電を介して電力を送らなければならなくなる。生真面目に1つずつデータセンターの系統接続申し込みに対して規則通りに対応した場合、おそらく、その設備投資額は兆円単位、工事完了も数年はかかってしまうだろう。脱炭素電源も一朝一夕に完成して稼働することは難しく、より現実を見据えた上での対応が必要となる。
こうした課題を解決するために今年3月には「ワット・ビット連携官民懇談会」が設置され、4月には専門的な検討を行う場として「ワット・ビット連携官民懇談会ワーキンググループ」が設置された。電気事業者・通信事業者・データセンター事業者の三者が参加し、インフラ整備の現況や今後の計画の情報共有、立地に必要な条件・課題の整理、効率的な整備に向けた有効な方策の検討を行う。6月までに毎月1回、計3回開催し、取りまとめを行い、結果を懇談会に報告する予定となっている。かなり重要な産業施策であるため慎重な議論が必要な一方で、AI開発が世界で活発化していることや一般送配電事業者へのデータセンターの接続申込が急増しており、あまり悠長に議論している時間もないことから、わずか3カ月というスピードで、まずは方向性をまとめるといったことが推測される。ただし、方向性が決まっても、具体的に実行に移すことが遅れれば本末転倒になってしまうため、取りまとめ後のアクションが重要となるだろう。