【コラム/5月20日】2025年度のGX・DX政策を解説
系統は既存設備の最大限活用 需要側の協力も不可欠
仮に脱炭素電源が必要十分量の確保できたとして、最終的に電気を送り届ける送配電網が十分に増強・確保できるかも課題となっている。
電源の接続については、ノンファーム型接続により一定程度、柔軟になってきた一方で、需要側の接続については、例えば、千葉県印西・白井エリアのように一極集中すると、相応規模の設備増強が必要となり、多額な設備投資が必要となる。この負担を一般負担と特定負担のどちらに寄せるか、エリアにより偏在されると託送料金に地域差が出てしまうこともあり、単純に設備を作ればよいといった発想は受け入れがたい。そのため、ワット・ビット連携の官民懇談会のワーキンググループでは、短期から中期には既存のインフラを念頭に、エリアを特定したデータセンター立地を促し、長期的に新たに電力・通信インフラを整備する特定エリアに立地を促すといった方向性が提示されている。
ワット・ビット連携構想の中では、地域にデータセンターを分散するといったことも論点として挙がっており、この点は、上述したGX産業立地政策と整合がとれた施策の策定、実行が求められるところとなる。
また、ワーキンググループの東京電力パワーグリッドの資料では、データセンター自身に潮流状況に追従して柔軟に運用可能な負荷ができれば、その空き容量を有効活用できるという案も記載されており、送配電事業者側だけでは解決がし難い状況において、需要側の創意工夫も求めるといった視点が提示されたことは重要なポイントだろう。
需要側の取り組みで言えば、省エネルギー小委員会の工場等判断ワーキンググループで、データセンターの効率化に向けた取り組み拡大を図るとして、新規に建設されるデータセンターに求めるエネルギー効率基準や定期報告・中長期計画で記載する内容の追加、一部内容の開示を求めるといった措置が取られる方向で議論され、今後、政省令および告示に向けた準備が進められることとなった。このように供給側だけでなく、需要側も協力した運用が図られなければ、データセンターのような大規模需要を着実かつ円滑に接続していくことは難しいだろう。
GX政策の具現化は始まったばかり 丁寧が議論に期待
このように、大きな政策に基づく具現化の議論が始まったが、今後、他の施策も同様に、関連審議会などで議論が始まることが予想される。一方で、まだ抽象的な議論も多く、実行までの具体化といったレベルに到達するには、もう少し時間もかかるだろう。そこには、数多くの関係者が存在し、事業活動や経営上のリスクになるものもあれば、チャンスになるものもある。また、多くの議論が行われていることで、より一層、制度が複雑化、かつ同時並行的に設計・実行されることが見込まれ、企業などにとっては、予見しがたい状況が続く恐れがある。
まだ、議論が始まったばかりであることを踏まえ、最後に手戻りや議論し尽くされないといったことがないよう、「急がば回れ」ではないが、丁寧な議論が進むことを期待したい。
【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。