【メディア論評/5月22日】キャリア官僚の人材確保と経産省の組織改革・新機軸
●半導体戦略の展開
「経済産業政策の新機軸」で例示された半導体製造基盤の確保に向けた戦略は、以下のように政官民一体となって展開されている。
政治学に、政治意思や政策の決定における政治と官僚システムのパワーバランス、関係性を見る分野がある。その状況は、時々の政治経済状況や関わるプレイヤー(当事者)の質や組合せによって変わるであろう。近年の経済産業政策の分野においても、TPPや日米の通商交渉、経済安全保障の立ち上げ、半導体産業の再生などで、政策通の政治家と官僚システムの広い意味での連携が見られたといえよう。
~TSMC 熊本進出~
台湾積体電路製造(TSMC)の熊本進出は、TSMCの日本進出意向を経産省にもつないだソニーグループCEO、自民党半導体戦略推進議連幹部、そして地元自治体など、いろいろな立場のプレイヤーが関わって成就した産物である。
参考=日本経済新聞3月4日付「核心」コーナー〈熊本が映す半導体のリアル〉
〈2月24日に開かれたTSMCの熊本工場の開所式には多彩な顔ぶれが一堂に集まり、それぞれ言葉を残した〉との切り口で、TSM創業者のソニー盛田昭夫氏との思い出をはじめ、甘利明元経産相、ソニーグループ吉田憲一郎CEO、材料サプライヤー首脳などの言葉を紹介して、このプロジェクトの実相を紹介している。日本経済新聞は、半導体戦略の政治側のキーマンとして関芳弘自民党半導体戦略推進議員連盟事務局長を紹介している。
◎日本経済新聞電子版22年5月11日〈半導体戦略「政官民の三位一体で」 自民・関芳弘氏インタビュー〉〈インタビュー:関 芳弘 自民党 半導体戦略推進議員連盟事務局長 元経済産業副大臣・環境副大臣 〉〈日本の半導体産業に問題意識をより持った契機は21年4月の日米首脳会談(←菅・バイデン)での共同声明だった。声明には半導体を含むサプライチェーンでの日米連携を盛り込んだ。高速通信規格「5G」をはじめデジタルの基盤である半導体はますます重要な産業になる。半導体が不足する事態も問題になっている。世界でも有数の技術を持つ台湾へ中国が侵攻する可能性も否定できない。そのような状況を踏まえ、国内で半導体を生産できるような国家にしなければならないと考えた。これまでも半導体政策を扱う議連はあったものの、あくまで宇宙や量子などさまざまな分野を扱う中での一つだった。相談した甘利明氏からの後押しもあり半導体に特化した議連を立ち上げることにした。甘利氏が会長になり、安倍晋三元首相や当時副総理・財務相だった麻生太郎氏は最高顧問に就いた。1980年代後半に50%ほどあった日本の半導体売り上げの世界シェアは2019年にはおよそ10%まで縮小している。なぜ落ち込んだのか。議連は徹底的な分析や反省から議論を始め、とるべき戦略を練った。経済産業省が政策を失敗したとの指摘もある。同省も懸命に取り組んでいたと思うが、政官民の連携の不十分さなどを背景に世界の産業構造の変化に対応できなかった面はあるだろう。半導体産業の復活は議員や政府だけではできない。何よりも重要なのは民間企業だ。政官民が三位一体となって半導体産業の復活に挑戦する。過去を振り返ると国家として必要な予算も出せていなかった。21年度の補正予算で半導体関連で総額7700億円を確保した。生産工場の新設や増設を支援する制度もつくった。台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県に建設する工場は日本再生の一丁目一番地になる。政府が果たすべき役割は半導体産業はこうあるべきだとの大きな方針を示し、必要な財政出動を実施することだ。立法府の一員として国民の理解を広げていかなければならない。民間企業とも意見交換しながら政府の方針に納得し投資を判断してもらえるよう後押しする〉
◎日本経済新聞22年5月10日付〈半導体、議連幹部ら岸田内閣で入閣 官民の投資促す〉〈「オールジャパンで産業復活に取り組むので、民間も安心して投資してほしい」自民党の半導体戦略推進議員連盟が2月に開いた党の安全保障対策本部との合同会議。……合同会議には民間の半導体関連企業のエンジニアも参加した。議連事務局長の関芳弘氏は「政官民が三位一体となって取り組んでいこうというメッセージでもある」と狙いを明かす。……「半導体は日本の経済安全保障上、不可欠だ」議連は問題意識を持った議員らが菅義偉政権時代の21年5月に立ち上げた。……設立総会では「3A」と呼ばれる当時の安倍晋三前首相、麻生太郎 副総理・財務相、甘利明税制調査会長がそろった。政策実現に向けたもう一つのエンジンが21年10月に改組された自民党の経済安保対策本部(本部長・高市 早苗 政調会長)だ。同本部の座長には甘利氏が就いた。甘利氏は前身の新国際秩序創造戦略本部のころから政府に経済安保の推進法案の策定を提言していた。21年秋に発足した岸田文雄政権で議連や本部の要職を務めた人物が閣内に入った。半導体戦略推進議連幹事長の山際大志郎氏は経済財政・再生相に就任した(←のち辞任)。新国際秩序創造戦略本部の事務局長だった小林鷹之氏が経済安保相になった。21年度の補正予算では7700億円ほどの半導体関連予算を確保した。 法整備で半導体工場の新設や増設に補助金を出して支援する制度を創設した。6000億円ほどを支援基金に充てる。……〉
参考=経産省幹部19年10月
「甘利さんは政策づくりがもともと好きな人。政治家というより、政策をやりたい」
参考=甘利明氏 自身のセミナーにて 21年11月
自分はもともと「政界の梁山泊」を作りたい、「英傑」を作りたいと言ってきたが、今回の(岸田内閣)組閣で、「チーム甘利」として頑張ってきたメンバー(山際大志郎、小林鷹之、牧島かれん)が主要なポジションを占めた。
◎朝日新聞「けいざい+」コーナー24年2月29日付〈TSMC誘致の真相(下)〉〈……経産相(21年10月~4月8日)を務めた萩生田光一は「着任早々は素人だったが、のめりこむように半導体を勉強した」と振り返る。TSMCの予算確保に財務省ににらみをきかせる半面、経産省の体質にも問題があると気づいた。この30年余、経産省の半導体政策は前のめりになったかと思えば後ずさりし、振幅が著しい。萩生田は国会で「世界の潮流を見極めきれず、適切な政策を講じられなかった」と同省の失敗をわびた。「経産官僚は優秀だけど、短期集中突破で持続性がないんです」まるで高校の文化祭の実行委員のようだと感じた。「短時間でワーッとやるけど文化祭が終わったら、あとは関係ナシなんです」経産官僚は“弾を込める”“仕掛ける”という言葉をよく使う。前任者の仕事を引き継ぐよりも、新しい政策を打ち出したがる。萩生田は「異動後も自分が手がけた仕事がどうなったか定年までウォッチしてほしい」と苦言を呈する。TSMC誘致は珍しく4代の局長、3代の課長がバトンを受け継ぎ、彼らの言葉を使うと“仕留めた”案件だった〉