【特集2】環境価値でCO2削減に成果 都内地下鉄駅でCN化を達成
昨年策定した中長期ロードマップの取り組みが順調だ。この1年間の成果と今後の施策について話を聞いた。
インタビュー/松原浩司(日本熱供給事業協会専務理事)
―昨年7月に「地域熱供給中長期ロードマップ」を発表し、カーボンニュートラル(CN)とレジリエンスへの貢献に向けた行程を打ち出しました。進捗を教えて下さい。
松原 ロードマップでアプローチ1に位置付けたDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けてDX研究会を立ち上げ、有効な事例を集めています。アプローチ2の熱の脱炭素化に向けては、温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度の活用の他、次世代燃料の導入が進んでいます。例えば、赤坂熱供給(東京都港区)は、赤坂5丁目エリアで、来年1月から太陽光由来のグリーン水素を活用した熱供給を行うことを公表しています。アプローチ3のレジリエンスでは、地域熱供給が有事でもエネルギー供給が継続できる特徴を生かします。万が一の災害時には、需要家やビル入居者、さらには帰宅困難者が「逃げ込める街」となるよう対策を講じている事例にも関心が集まっています。
――SHK制度では、熱の環境価値を評価した係数の公表や、CO2排出係数ゼロメニューの提供が可能となりました。事業者の反応は。
松原 会員事業者の4分の1が係数を公表し、需要家が国に報告するCO2排出量は合計で約5万3000t削減したと見込まれます。開始から1年で多くの事業者が利用したことは大きな成果です。今年4月には丸の内熱供給と池袋地域冷暖房が「カーボンオフセット熱メニュー」を公表し、東京メトロ7駅の空調などに使用する全ての熱をCN化しました。
―4月に開幕した大阪・関西万博では今回も地域熱供給が採用されています。
松原 1970年の大阪万博で国内初の地域熱供給方式が採用され、その後、千里ニュータウンや新宿新都心など、本格導入につながりました。今回の万博においても海水の冷却熱利用や、地中60mの帯水層に熱を蓄える帯水層蓄熱などの最新技術を導入した地域熱供給が採用されました。
万博の採用が普及の第一歩 特徴や付加価値をアピール
―全国に熱供給を普及していく施策は。
松原 地域熱供給が万博で採用されていることも、個別のビルでは取り込みにくい海水熱や帯水層に蓄えた熱を活用可能なことも世間ではあまり知られていません。省エネ、CN、まちづくりに資する地域熱供給の有する価値をステークホルダーの皆さまに分かりやすく伝え、正しく理解されるよう取り組むことが普及に向けた第一歩と考えています。
