【コラム/7月22日】2025年度第1四半期の制度設計の振り返りと今後の展望
2025年度、これから着目する制度設計
この7月以降も継続して、上述した足下・将来双方を見据えた制度設計の議論が行われると予想される。
大きな政策では、2026年度に本格開始される排出量取引制度の具体設計と、GX産業立地の選定要件が挙げられる。排出量取引制度は通常国会で可決され法律公布された改正GX推進法において法定化が明記され、この7月から小委員会を立ち上げ、詳細設計の議論が始まっている。エネルギー多消費産業や発電事業者にとっては負荷が増えることもあり、実効性ある制度設計が議論・審議されることが期待される。
特に各社への排出枠の割当は、二酸化炭素排出量削減のインセンティブを促しつつ、公平性ある設計にすることが重要であることから、慎重かつ丁寧に議論を進めてほしい。GX産業立地の戦略地域の選定要件は、今夏に提示できるよう審議が進められる予定である。かつての日本の経済成長を支えてきたのは、コンビナートや工業団地、港湾といったインフラであるが、これらがGX時代の産業の担い手・創出の場として、データセンターという新たな施策を加えて有効打となり得るか、エネルギー業界だけでなく、デベロッパーや素材産業、スタートアップ等が着目する施策になっている。
足下の制度設計で着目すべき点は、昨年度に議論・整理された電力システム改革検証の取りまとめを踏まえた制度検討になるだろう。8つの論点はどれも重要である。また、その制度設計次第では、事業運営に与える影響もあることから、事業者の意見をよく聞きながら、こちらも実効性ある、全体最適な制度設計とすることが望まれる。上述した通り、既に小売電気事業者への量的な供給力確保や中長期取引市場の検討が始まっているが、既存の容量拠出金負担やLNG調達との整合性、硬直化し過ぎることによる自由度の阻害への配慮、取引所取引と相対取引とのバランス等の課題を踏まえた検討が求められる。他の議論も今後、順次行われ、当初の予定では2025年内に一定の方向性が見出されることになっている。
ここ最近の電気事業制度設計に関する議論が、数回で整理し結論に導く拙速型になる傾向が強く、その結果、十分な議論がし尽くされないまま制度が運用され、後の検証で課題が浮き彫りとなり、見直しを余儀なくされることも多い。制度は常に流動的なものであることから、一度作って完成ではなく、定期的に状況監視、見直しして最適化することが重要だ。一方で、余計な手戻りがないよう、エネルギー事業者、さらには需要家が円滑にエネルギーを使える環境の整備を心がけることが重要であろう。
【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。