【メディア論評/7月24日】霞が関人事に関する報道~経産省編~
2.幹部人事を巡るコメント
(1)次官級人事~ここ3回の事務次官、経済産業審議官人事振返り~
◇23年7月
一昨年の次官級人事で、多田明弘事務次官(1986年)、平井裕秀経済産業審議官(87年)が勇退、この2つのポジションを誰が占めるかが注目された。候補としては当時、保坂伸資源エネ庁長官(87年)、飯田祐二経済産業政策局長(88年)、藤木俊光官房長(88年)、松尾剛彦通商政策局長(88年)、これらの候補者からどういう組み合わせになるかであった。結局、飯田事務次官(88年)、保坂経済産業審議官(87年)の体制となり、藤木官房長(88年)と松尾通政局長(88年)は現ポジションに留任となった。メディアは、日本経済新聞などが、通例は事務次官と経産審は後者が同期あるいは年次が下だったのが、今回は「経産次官は入省年次がナンバー2の経産審より1年若く“年次逆転”となる異例の人事」ととらえた。一方で、METIの課長クラスの一人は、発令前の一昨年6月初めに「今の時代に年次逆転はありうる話」と述べていた。また、大手電力幹部は発表直後、「知っています?資料見ていて気付いたんですけど、飯田さんと保坂さんは生年月日(63年5月2日生)が一緒なんですよね」と筆者に面白い指摘をしてくれた。一方、現職に留任となった藤木官房長(66年1月生)、松尾通政局長(66年3月生)は、入省年次はともかく、年齢的には飯田次官、保坂経産審より2学年若いということになる。
◇昨年7月
昨年は、予想通り事務次官留任という中で、松尾剛彦氏が通商政策局長から順調に経済産業審議官に就任した。同氏は、「平井さんや保坂さんの後任というのは、プレッシャーしかない…という気分ですが、頑張りたいと思います」と人柄そのまま控えめに語っていた。藤木氏は官房長から次官級への手前のポストとも言うべき経済産業政策局長に就任した。
◇今年7月
昨年の〈2024年7月メディア論評 霞ヶ関人事に関する報道~経産省編~〉において筆者は、〈経産省では、財務省などと異なり、これまで同期で事務次官を引き継ぐというケースは考えられなかったといえる。しかし来年、藤木氏が事務次官に就任するかについては、筆者が感ずるに、多士済々の1992年組までの間の幹部層を考えると、違和感は少ないように思われるが、どうであろうか。〉と述べた。本年、藤木氏は満を持して事務次官に就任することとなった。もともと88年入省組は藤木氏が大臣官房総務課長を務め、エースと見做されてきた。上記METIの課長クラスの一人は、「藤木さんは、下からの信頼も厚い。無茶苦茶人望ある」と述べていた。松尾剛彦経済審議官については、上記の大臣の発言にもあるように、「米国の関税政策への対応など」で荒井通商政策局長、伊吹製造産業局長とともに留任となった。
参考=今年各省庁で新たに就任した事務次官の年次
・総務省 88年(旧郵政省出身→旧自治省出身に)
・国土交通省 86年(旧建設省出身→旧運輸省出身に)
・環境省 89年(財務省出身→環境省出身に)
・文部科学省 88年(旧文部省出身→旧科学技術庁出身に)
・復興庁 89年(国土交通省出身→総務省出身に)
・留任:財務省 87年、農林水産省 88年、内閣府 86年(財務省出身)、厚生労働省 87年
(2)幹部クラスの人事
〇経済産業政策局長
92年年組のエースと言われる畠山陽二郎(92年)氏が、資源エネルギー庁次長から経済産業政策局長に就任した。(同氏は前職より引続き首席GX推進戦略統括調整官を兼務する)同氏のここ最近のキャリアは、産業技術環境局長→資源エネルギー庁次長→経済産業政策局長となる。今回事務次官を退任した飯田祐二氏は、産業技術環境局長→資源エネルギー庁次長→官房長→経済産業政策局長と歩んで次官に就任した。藤木新次官が88年入省、畠山氏は92年入省。藤木氏が2年務めるとして、その間の89~91年入省組から事務次官が出るかが注目される。ある幹部OBは、88年組が2代続いたから92年に飛ぶ可能性もあると述べる。なお、畠山氏の父は、通商産業審議官、JETRO(日本貿易振興会)理事長を務めた畠山襄氏である。
〇資源エネルギー庁
村瀬佳史エネ庁長官(90年)、久米孝電力・ガス事業部長(94年)、和久田肇資源・燃料部長(92年技)が留任した。資源エネルギー庁次長には龍崎孝嗣脱炭素成長型経済構造移行推進審議官兼GXグループ長(93年)が就任した。省エネルギー・新エネルギー部長は、伊藤禎則氏(94年)が龍崎氏の後任として脱炭素成長型経済構造移行推進審議官(兼GXグループ長)に就任、小林大和(96年)大臣官房秘書課長が省エネ・新エネ部長に就任した。伊藤氏はJETROニューヨーク産業調査員、大臣官房秘書課長、首相秘書官、省エネ・新エネ部長と、体調維持に留意しながらキャリアを重ねている。
◇電気新聞7月3日付(抜粋)〈経産省幹部人事 継続性重視で手堅く 再稼働など課題山積〉〈……エネルギー政策の部署も骨格を維持した。……エネ庁の村瀬佳史長官は、前任の保坂伸氏と同じ3年目となった。電力・ガス事業部の久米孝部長も3年目に突入し、電力システム改革の制度設計議論をけん引する。電力・ガス取引監視等委員会の新川達也事務局長は4年目となり、監視の立場からシステム改革に対応する。……エネ庁で村瀬長官とタッグを組む次長には龍崎孝嗣脱炭素成長型経済構造移行推進審議官兼GXグループ長が起用された。龍崎氏の後任には、伊藤禎則省エネルギー・新エネルギー部長が就いた。エネルギー政策とGX政策の一体化を印象付ける。さらに経済産業政策局長に就いた畠山陽二郎エネ庁次長が(引き続き)首席GX推進戦略統括調整官を兼務することでGX政策の継続性も担保した。……〉
説明するまでもなく、エネ庁は、電力・ガス事業部、エネルギー・新エネルギー部、資源・燃料部それぞれが課題を抱えている。電力政策については、久米孝(94年)電力・ガス事業部長、小川要(97年)電・ガ部政策課長と経験値の高いラインが維持され、電力システム改革見直しや原発政策の前進、東電経営問題などに取り組む。省エネルギー・新エネルギー部は、新部長の下、洋上風力や太陽光促進の再構築、地熱発電への本格的進展などに取り組む。資源・燃料部は、米国との関税問題の中でのLNG輸入拡大などに対処する。アラスカLNGの問題について、最近ではアラスカで開かれたエネルギー関連の会議に松尾剛彦経産審議官、長谷川裕也資源・燃料部資源開発課長が出席するなど、省あげての対応になっていると言える。経済性が大きな課題とされるアラスカLNG問題は、安全保障問題と関税問題が絡む形で、台湾や韓国の動きも踏まえつつ、日本も政治的対応を迫られる可能性があろう。その折には、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、電気事業に加えてガス事業への燃料の調達を行う条文も入ったJOGMEC法が発展的に“活躍”するかもしれない。
〇大阪・関西万博2025年日本国際博覧会協会事務局
本省では首席国際博覧会統括調整官を務める茂木正政策立案総括審議官(1992年技)が留任した。大阪の2025年日本国際博覧会協会事務局でも、高科淳副事務総長(1989年)をはじめ、事務局の中枢に松山泰浩氏(92年)、三浦章豪氏(92年)などが派遣され、厚めの態勢が敷かれている。大阪・関西万博は、当初の厳しい見通しから脱して、全国紙の関西版などでは、“健闘している”と評価される状況になっている。閉会後、国の威信をかけた事業に奮戦した人たちが来年にかけて帰還することになる。
〇中小企業庁
飯田健太次長(92年)、貴田仁郎長官官房総務課長(97年)、鮫島大幸事業環境部取引課長(99年)など経験豊富な幹部が転任する中、昨年、経済産業政策局長から中小企業庁長官に就任した山下隆一氏(89年)は留任する。昨年の同氏就任時、齋藤経産相(当時)は記者会見で「中小企業の成長支援などがマクロ経済政策、産業政策として極めて重要となる局面であることを踏まえた」と述べている。中小企業庁長官を経て事務次官に就任した例は安藤久佳氏など過去にもある。ある幹部OBは山下氏の長官就任時、「中小企業庁は政治とのかかわりも深い。政治とのつながりも深めながら次官をうかがうことになる」と述べていた。先にも述べたが、88年入省組が連続して事務次官に就任したのを受けて、89~91年入省組から事務次官が出るか今後の展開が注目される。なお、今回の異動で山崎琢矢氏(96年)が、大臣官房総務課長から、電力事業規制や新エネ政策などに経験のある資源エネルギー庁ではなく、中小企業庁経営支援部長に就任した。かつて奈須野太氏(90年、今回退官)は、経営支援部長から事業環境部長、次長を歴任して、その後、産業技術環境局長、知的財産戦略事務局長などを務めたが、山崎氏もしばらく中小企業庁の中核を担うということであろうか。