【特集2】現場力生かす方針にシフト 全体最適化で燃転を後押し
【静岡ガス】
静岡県は製紙、化学、金属などのエネルギー多消費型産業が集積する地域だ。中でも東部に位置する富士市は国内有数の製紙業拠点として知られている。
この地で都市ガスへの燃料転換をけん引してきた静岡ガスはこれまで、自社導管が整備された県中心部を軸に、LPガスやA重油、灯油を使用する事業者への燃転を着実に進めてきた。導管が及ぶエリアでは開拓が一巡し、現在はさらに踏み込んだ提案に軸足を移している。
注目されるのは、石炭やC重油といった高炭素燃料からの転換だ。特に製紙業は、乾燥工程などで大量の熱や蒸気を要するため、「長時間・高出力」の燃焼が可能な高炭素燃料が長らく使用されてきた。熱量単価の低さや既存設備との親和性もあり導入が進んだが、脱炭素の機運の高まりを背景に都市ガスへの転換を検討する企業が徐々に増えている。
ただ、石炭専焼のボイラー設備などは都市ガスや液体燃料への転換に対応していないケースも多い。転換には数千万円から数億円規模の初期投資や工場の稼働を一時的に停止するなどの調整も必要となる。営業本部産業エネルギーグループの森拓也リーダーによると、「お客さまは、環境対応への必要性は認識しているものの、すぐに決断するのは簡単ではなく、将来を見据えた判断が必要とされる」という。
工場内の改善余地を可視化 補助金案示し負担を軽減
こうした顧客の課題や要望に応えるには、より実情に即した、きめ細かな提案が欠かせない。同社では対応力を高めるため、燃料転換の体制を従来の営業主体から、グループのエンジニアリング会社を含めた構成へとシフトした。

静岡ガス・エンジニアリングの永野光訓氏は、「設備導入や保守を担ってきたノウハウをもとに、お客さまの工場の全体像を把握した上で、改善の余地を見極めた提案ができる」と強みを語る。例えば、工場内のエネルギー使用状況を可視化。どこで無駄が生じているかをデータで示すことで、省エネのポイントを明確にし、それが燃料転換でどう改善されるのかを提示する。こうした積み重ねが、顧客との信頼関係の構築につながっているという。
初期投資の負担についても支援を強化する。通常は設備メーカーが行うバーナー更新作業などの一部を代行することで費用を削減。その他、顧客が把握しきれない補助金制度の中から最適な組み合わせを提案し、導入ハードルの軽減につなげている。
「エンジニアリングの強みも生かしつつ、性能・環境・保守を含めたトータルパッケージで対応していく」と、森リーダーは言う。永野氏も、「工場にはガス設備だけではなく、電気系統や圧縮空気配管など多様な設備がある。当社グループは工場全体のユーティリティの最適化を図る提案をすることで、地域のカーボンニュートラル化に貢献したい」と意欲を見せる。
全体を見渡す視点と、現場に寄り添う対応力を武器に、静岡ガスは次なる燃転ステージへと歩を進める。