【JERA 奥田社長CEO兼COO】時代の変化に合わせ新たなモデルを模索し 地方創生にも本腰

2025年8月1日

井関 他方、新たに米国の4プロジェクトから20年間で年間最大550万t、全量仕向け地フリーの長期契約を結びました。

奥田 地政学リスクや再エネの導入拡大を踏まえ、燃料の安定調達や調達の柔軟性がさらに求められる中、米国産LNGには競争力があり、仕向け地変更はもちろんトレードも可能です。当社の調達先はアジア、オセアニアに偏っている中、米国比率を高めていくことが必要だと判断しました。

井関 米国といえばやはり気になるのがアラスカのプロジェクトですが、どう見ていますか。

奥田 供給地点が増えることはウェルカムですし、メキシコ湾から日本まで輸送するよりはるかに近く、コンセプトとしては検討に値します。ただ、諸条件が示されるのはこれからであり、その後検討することになります。


環境厳しい洋上風力 規模拡大の利点生かす

井関 再エネ関係では、BPと洋上風力事業を合併し、JERA Nex bpをまもなく設立します。コストアップなど事業環境が厳しさを増す中、新会社設立の効果をどう考えますか。

奥田 洋上風力の事業性がバラ色ではないと認識しつつも、エネルギー事業者として洋上風力という選択肢を今の段階で消すことはあり得ないという考えです。ただ、資機材コストが上昇し続け、メーカーは寡占状態にある中、規模を拡大して世界有数の事業者になった上で生き残りをかけた戦いに入っていく、という結論に至りました。BPと組むことで、開発中を含めて13‌GW(1GW=100万kW)を有する世界ベスト5の規模となり、スケールアップメリットを生かした調達が可能になります。

ただ、これでバラ色になるわけではありません。地域の実情に合わせた開発・運転の仕方が必須であり、ローカルを徹底的に調査して、グローバルな体制と組み合わせた開発を一つずつ作り上げていきます。

井関 国内では石狩湾新港が運開。政府公募では秋田県男鹿・潟上・秋田沖と、青森県沖日本海(南側)を落札しました。先行する秋田の進捗は?

奥田 28年の運開を目標に、時間がかかる陸上の送電工事に先行して着工し、今のところ順調に進んでいます。地元にとっても初の大規模プロジェクトですから、各工事をなるべく地元の企業に担ってもらうべく、マッチングなどを行ってきました。

井関 三菱商事の案件を巡ってはいろいろな噂が飛び交っています。仮に同社が秋田から撤退する場合、名乗りを上げる可能性はあるでしょうか。

奥田 今は全く想定していません。まずは当社の案件を仕上げることに注力していきます。

井関 最後に、国への要望について一言どうぞ。

奥田 エネルギー基本計画でも、火力が供給力としても調整力としても重要だと強調されました。長期脱炭素電源オークションや予備電源制度などで、火力の固定費のリスクはかなり軽減されたと思います。ただ、ガス火力でいえばコストの大部分は可変費です。先述したように燃料の変動量が拡大する中、トレーディングで絶えず数量を調整するリスクが膨大で、買った時との値差は全て当社が被ります。JERAグローバルマーケッツ(GM)の機能を活用し大きな損失を出さずに済んでいますが、日々薄氷を踏む思いです。われわれも工夫を重ねていきますが、制度的支援の必要性をさらに訴えていきたいと思います。


対談を終えて

国内事業の新機軸として、地方創生を視野に入れたGXの推進を打ち出した。要となる洋上風力、水素・アンモニア分野については、コスト面などで足元は逆風だが、中長期的なポテンシャルは大きいとみる。地産地消を軸にして地域の産業振興につなげていくことができるか。資料を読むことなく自身の言葉で語る奥田社長の考えは明快だ。火力・燃料調達会社として発足したJERAは、今や地域産業にも関わる総合エネルギー事業者へと脱皮しようとしている。 (聞き手・井関晶)

1 2 3