【コラム/8月7日】米国政府の挑戦状 気候危機に対峙する報告書が波紋

2025年8月7日

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

7月に公表された米国エネルギー省の気候作業部会の報告が反響を巻き起こしている。タイトルは「温室効果ガス排出が米国気候に与える影響に関する批判的レビュー(A Critical Review of Impacts of Greenhouse Gas Emissions on the U.S. Climate)」だ。

これまでは気候変動といえば「2050年までにCO2排出をゼロにしなければ地球温暖化が暴走する」といった気候危機説が諸国政府やメディアによって流布されてきた。しかしこれは科学的な根拠がない。そのことを、この報告書はデータに基づいて説得的に述べている。気候危機論者への、米国政府による公式の挑戦状だ。

この報告書は、自らが多様な専門知識を持つクリス・ライト米エネルギー長官が集めた5人の独立科学者からなる「気候ワーキンググループ(Climate Working Group, CWG)」が作成した。調査対象としてはもちろん地球全体であるが、特に米国への影響に重点を置いている。


EAP「CO2危険性」撤回を提案 CWGの見解を引用

さっそく政策形成にも影響を与えている。報告書の発表と同日にトランプ政権は米国環境保護庁(EPA)の「CO₂危険性認定」を撤回する提案を公表した。撤回が実現すれば、EPAは自動車などのCO2排出を規制する権限を失う。この提案にはCWG報告が何度も引用されている。

以下、各章の概要を紹介しよう。

第1章では、CO2はいわゆる汚染物質ではないこと、それには植物の生育を促進するなどの直接的な効果と、温室効果ガスとしてふるまうという間接効果があることを説明している。

第2章では、大気中CO2の直接的な効果として「地球緑色化」に焦点を当てている。すなわち大気中CO2の増大は、光合成を高めるという「施肥効果」によって、地球上の植物を繁栄させてきた。このCO2がもたらす生態系への便益は大きなものだが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)などの既往の報告では扱いが極めて乏しかった。

第3章では、CO2 のもう一つの直接的効果として「海洋酸性化」を論じている。用語として「海洋酸性化」は不適切で、むしろ「海洋中性化」というべきである。というのは、海水は弱アルカリ性であり、CO2はそれをやや弱くするだけだからだ。なお海洋生態系は弱酸性の海洋で進化してきた歴史があるために、この海洋中性化に大きな問題にあるとは考えにくい。

第4章では、人間活動による温室効果ガス(とエアロゾル)が地球の気温上昇を司る支配的な要因であるというIPCCの説に有力な疑問を投げかける。太陽活動の変化や大気・海洋などの内部変動の寄与は無視できないほど多いという論文が紹介される。またIPCCが環境影響評価に用いるシナリオの排出量が非現実的に多すぎるため、環境影響が過大に評価されていることも指摘する。

第5章では、CO2がどの程度気温を押し上げるか――いわゆる気候感度(ECS/TCR)が議論される。IPCCが示す範囲よりも気候感度は低い、つまりCO2が排出されてもそれほど気温は上昇しない、という論文が紹介されている。

第6章では、IPCCが用いる気候モデルの性能検証を行う。気候モデルは過去の再現にも大きく失敗している。観測データに比べて全般的に気温が上昇しすぎる傾向が顕著であり、また、南北半球の反射率が大きく異なるなど、観測データに合わない出力になっている。これでは将来予測も信頼に足らず、政策決定のツールとして使い物にならない。

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