【コラム/8月15日】再生可能エネルギー電源拡大に潜むジレンマ
さらに、青森県は出力2,000kW以上の太陽光発電と出力500kW以上の陸上風力発電を対象に、地域の自然環境や景観と調和するための「共生条例」を2025年3月28日に公布した。この条例では、施策の実効性を高める手段として再エネ共生税の創設が規定されている。
また、条例に基づき、再生可能エネルギー事業の実施に関しては、原則として事業を禁止する「保護地域」、一定の規制を設ける「保全地域」、それ以外の地域として「調整地域」の3区分によるゾーニングが設定されている。このうち、保全地域・調整地域の中で、県が再エネ開発促進エリアと認めた「共生区域」の外に新規電源を開発する場合、太陽光で1kW当たり最大410円、陸上風力で最大1990円の再エネ共生税が課税される(施行時点で建設済みの設備は課税対象外)。
飛躍的に再生可能エネルギー電源が増大しているドイツでも、景観への影響や騒音問題から地域住民の抵抗が大きい陸上風力発電の拡大を抑制する規制が存在している。同国では、風力発電設備と住宅地の最低離隔距離を1,000メートルとするルール(1000-Meter-Regelung)が存在しているが、このルールが風力発電設備の建設から住民と景観を守る「防御メカニズム」として機能していた。しかし、2045年カーボンニュートラル(CN)を掲げ、2030年に再生可能エネルギー電力の総電力消費量に占めるシェアを80%以上とする目標を掲げるドイツでは、ルールの規定により、風力発電の設置可能な土地が半減するとの批判が高まった。
そのため、同国では、2022年に、「陸上風力法」を成立させ、2030年における陸上風力の導入目標(115GW)の達成のために、ドイツ全土の2%を陸上風力発電の設置が可能な区画として指定することになった。また、これに伴い、州ごとに2027年末と2032年末において達成すべき「区画の貢献値」が定められ、面積目標を達成できないときは、最低離隔距離を定めるルールは適用されないことになった。
わが国でも、2050年CNに向けて再生可能エネルギー電源を主力電源化することが求められている。その拡大を抑制する動きが地域レベルで増大してきたとき、ドイツのように、CN実現のためにトップダウン方式が必要になってくるのであろうか。地域住民の民意を重視した再エネ拡大は理想的だが、それでは2050年CNという至上命題の達成が困難になる場合、CN政策は価値観の対立という厳しいジレンマに直面することになるかもしれない。
【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。
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