【SNS世論/8月18日】参政党躍進の期待と不安 物事の単純化で再エネ敵視も
7月の参議院議員選挙で自公連立政権が敗北し、少数政党が躍進した。その中で14議席を獲得した参政党の伸長が目立った。この結果はエネルギー問題にどのように影響するのか。エネルギー業界の中にいる人間として、期待と不安の双方を持っている。SNSの動きから支持者の考えを見てみよう。

◆ネット世論と連動する参政党
参政党は3年前の選挙で1議席を獲得しており、今回合わせると15議席になった。これは議会のルールで予算を伴わない法律の提出権を持ったことになり、同党の存在感は増した。躍進した国民民主党、日本保守党も、再エネの無制限な拡大に懐疑的だ。今後、再エネ振興や脱炭素政策の推進には、議会から一定のブレーキがかかるだろう。
ただし参政党はまだ準備不足のようだ。あるジャーナリストが参政党の政治家個人に取材を申し込んだところ、党本部の広報担当から連絡が来て、「全議員が研修中なので秋まで対応ができない」と断ってきた。議員が自らの言葉で語れない。参政党は中身よりも、勢いで勝ってしまった。エネルギー政策でも、これから中身を作っていくことになりそうだ。
同党は九つの柱を掲げ、その中で「地球と調和的に共存する循環型の“環境・エネルギー体系と国土づくり”」(リンク:参政党政策集)https://sanseito.jp/2020/hashira09/を唱える。ただしその公約は政策に詰めきれていないようで、かなり曖昧なものだ。再エネの補助金の縮小と、原子力の促進、太陽光による森林伐採などの抑制、エネルギー産業への外資導入の縮小が方向になるだろう。
国民に政治参加をさせる政党――。参政党はそれを強調する。それではエネルギーではどうなのか。SNS世論から見られる支持者の傾向を見てみよう。日本のSNSは既存メディアの左傾化の反動のためか、他国と違って右、保守派の人の力が強い。その支持者たちは、揃って再エネや脱炭素政策に懐疑的だが、参政党もそれに同調している。
◆SNSで固まり、再エネ敵視へ強まる意見
エネルギー業界の片隅にいる私は、反原発は異様な政策であると思っている。そして自公政権が推進し、既存メディアなどが支援する脱炭素政策はおかしいと思っている。気候変動への対応は大切であるが、無駄な資金が投入されている。従って、それに対する疑問を示した参政党、また国民民主党や日本保守党には期待しているわけだ。
しかしSNSでの参政党の支持者、関係者の言論を見ると、少し心配になる。ネットでは、自由に言論が流れているが特定の意見を持つ人々が集まり、異なる意見を排除して、過激になっていく現象がある。「サイバーカスケード」(カスケード:かたまり)とか「エコーチェンバー」(反響の響く部屋、特定の音が大きく聞こえる)という現象だ。政治に絡むと、そうした動きが先鋭化する。どの政党や政治集団もそうだが、参政党の支援者は特に強い印象だ。
短文投稿のSNSのXでは、その政治議論が可視化される。何人かの参政党の支持者のXをのぞいてみた。「日本の自然を壊してメガソーラーを建てるのはおかしい」「森林伐採を伴う再生可能エネルギー事業の禁止を求める」「太陽光パネルは中国製だ。日本の金で中国に利益を与えている」といった意見が溢れていた。
それらは同意できるのだが、「エネルギー利権で日本が売り渡される」「再エネや脱炭素は米民主党政権の謀略だ」など、そこから陰謀論めいた発言をしている同党の支持者もいた。もちろん、それは一部の人の意見だろうが危うさがある。
◆SNSは「陰謀論」の増幅器か
日本のエネルギー政策は、不幸な動きをした。福島第一原発事故の後で、反原発感情が強まった。原子力の代替策という間違った位置付けをする旧民主党政権、政治勢力で過剰な保護に引っ張られ、一種の再エネバブルが生まれた。それらが落ち着き始めたのは良いが、今度は陰謀論めいた言説が語られる。SNSはその増幅器のようだ。
私たち既存エネルギー業界の人間は、再エネを敵視しているわけでもないし、脱炭素は長期的には必要だと大半の人が考えているだろう。既存水力を含めると総発電量の1割強までに成長した再エネを、既存のエネルギーシステムの中にどのように組み込むこのかが課題だ。再エネは雇用や産業を産んでいる。「原子力、頑張れ!」の声援はありがたいが、逆に原子力だけに突出して成長させるのも無理がある。
物事を単純化する意見にひっぱられがちな参政党と同党支持者の動きに危うさを感じる。要はバランスだ。
参政党は、脱炭素一辺倒の政策に疑問を呈し、国民の生活コスト軽減とエネルギー安全保障を優先する方向だ。これから作る政策を期待したい。
保守政党が欧米で躍進し、揃って脱炭素政策に疑問を示している。米国ではトランプ大統領がその先頭に立っている。また参政党は杉山大志氏など、脱炭素に懐疑的な専門家を招き勉強をしている。そうした専門家の知恵を活かして適切な政策を組み立ててほしい。SNSを観察し、そんな感想、そして期待と不安を参政党に抱いている。