【目安箱/8月26日】米貿易・関税交渉とエネルギー 夢は大きいが先行き不透明

2025年8月26日

日米の貿易・関税交渉交渉が続いている。主要国の中で日本は米国との間で合意をいち早く結び、米国による高率の関税を回避した。しかし合意の中身は曖昧さが残る。エネルギーを巡っては、アラスカのLNGの日本の関与、またガソリンの代替となるバイオエタノールの輸入拡大が合意された。しかし漠然とした内容だ。米国に無理な要求をされないように、日本側のエネルギー業界、有識者の方から早めに制度づくりの注文をした方がよさそうだ。

25年2月の日米首脳会談(首相官邸Hウェブサイトより)

◆日米合意で何が決まったか

7月の合意文書はエネルギー関係の箇所を抜粋すると、次のような内容だ(ホワイトハウスの公開した文書より)。日米両国政府は、正式な合意文書を作成しておらず、これは問題だ。(日米関税合意に関するホワイトハウスのファクトシート全文(日本語訳

▶︎5500億ドル(約80兆円)を超える新たな日米投資枠組みで、その利益の90%をアメリカがとる。これは外国投資として史上最大のコミットメントであり、数十万人規模の米国の雇用を創出して国内製造業を拡大し、何世代にもわたる米国の繁栄を確保することになる。

▶︎日本はトウモロコシ、大豆、肥料、バイオエタノール、持続可能な航空燃料(SAF)を含む米国製品を80億ドル相当購入する。

▶︎日本向けの米国産エネルギー輸出が大幅拡大される。米国と日本はアラスカ産LNGに関する新たなオフテイク(長期供給)契約を模索している。

この80兆円の投資に関する日米間の認識の違いが問題になっている。米国側は投資収益の90%が米国に帰属すると主張する。一方で日本側は出資割合に基づく民間企業間の利益配分としており、財政負担は数百億円程度に抑えられるとしている。この食い違いが、今後、大きな問題にならないかが懸念される。ただし日米両国政府の支援による共同事業や大規模投資が行われる可能性は高い。

◆アラスカ天然ガスで新ルート建設

アラスカは、原油、天然ガスが埋蔵されているが、その採算が取れる採掘場所は限られている。日本もアラスカ南部の天然ガスをかつて輸入したが、その産出量が減ったために今はなくなっている。

トランプ米大統領は、就任直後に出したいくつかの大統領令の中で、アラスカの天然資源の開発を行う意向を示した。アラスカ・ガスライン開発公社は、同州北部で算出する天然ガスを、州を縦断する長さ約1300キロのパイプラインで南部に輸送し、供給基地を作る計画を示している。2030年頃の運転開始を目指している。

米国側は、この供給網を日本の金で整備し、ガスを日本に輸出しようと考えているようだ。日本は世界の2割のLNGを輸入する世界最大の輸入国だ。その輸入先は中東や東南アジアに偏在しているため、友好国の米国から輸入することは好ましいだろう。供給先の多角化によって、有事の際の安全保障リスク軽減するためだ。

日本にとってアラスカは中東より近く、中国の勢力圏である南シナ海を通らない。またLNGを使う、台湾、韓国などの近隣諸国とも、共同して供給網を整備することもできる。

しかし、この事業開発のコストと時間が問題になる。発表によると、その工事金額はおよそ計画で440億ドル(6兆4000億円)だが、上振れの可能性がある。アラスカのガス開発に、日本側がどのように関わるか、まだ明確ではない。そしてトランプ大統領の任期終了である2028年までに結果が出る話でもなさそうだ。

◆バイオエタノールも今すぐ使えない

バイオエタノールも同じことが言える。日本ではバイオエタノールはほとんど使われていない。それは「これからインフラを作る」ということだ。すぐには使えない。

バイオ燃料は燃焼時に二酸化炭素を排出するが、原料となる植物が成長過程でそれを吸収するため、差し引きゼロ、つまりカーボンニュートラルとみなされる。燃料の脱炭素化の手段として注目されているが、日本ではコストの高さから作られてこなかった。一方で、農業大国でもあるアメリカではトウモロコシ由来のバイオエタノールがガソリン、軽油への利用、近年では航空燃料への試験的利用が行われている。米国はそれを売りたがっている。

日本は今年25年2月に第7次エネルギー基本計画を閣議決定した。そこでバイオエタノールの活用を、政府が支援することを宣言した。また今年6月に経産省・資源エネルギー庁は、民間企業などと、利用のためのアクションプランを作った。そこでは2028年からエタノールを10%含むE10燃料の供給を始める目標を掲げた。ここでも即座に使用が広がる状況ではない。

バイオエタノールは、一種のアルコールだ。ガソリンに添加する場合、米国では直接混合してコストを下げている。バイオエタノールを「ETBE」というガソリン添加剤に加工して、ガソリンに混合してきた。米国では直接混合しても、問題はないという。しかし日本ではガソリンスタンドの供給設備、また入れる自動車エンジンの破損や損耗が起きる可能性を懸念する声もあり、その検証、また対応が必要だ。

またバイオエタノールの混入が10%程度の「E10」なら、改造なく自動車エンジンで使っても大丈夫と言われる。しかし米国と気候が違い、産地から搬送したエタノールを使う日本で問題はないか。その検証も必要になる。米国では同量のエネルギー量なら、ガソリンよりバイオエタノールが安い傾向がある。しかし日本ではバイオエタノールの輸送費がかかるため、価格面で優位になるかはまだ不明だ。日本の消費者がそれを使うかはわからない。

トランプ政権は農業の支援を重視しているので、日本のバイオエタノールの大量輸出は、米国内での政治的なアピールにはなるだろう。しかし未定のことだらけなのだ。合意文書で出てきた80億ドルの購入の根拠、時期も公表されていない。

◆日本の産業界から積極的に政府に提案を

日米合意とエネルギーを調べると、中身は何も決まっていなかった。何か大きな取引を成し遂げたような印象を与えるため、トランプ米大統領を喜ばせるため、急いで日米当局が合意を結んだように見える。

ところが結果の出ないことをトランプ大統領がこれら二つの問題で不快に思ったら、交渉がおかしな方向に転がるかもしれない。

LNG、またバイオエタノールに関わるエネルギー産業の人は、早め早めに動いた方がいいだろう。自分のビジネスの向き合い方と、この政治圧力を利用して、どのように利益を上げるかを考えるべきだ。場合によっては日米両政府の政治家や官僚、または気まぐれなトランプ大統領の意向に先んじて、ビジネススキームを作って提案し、逆に彼らを引き回することも考えるべきだ。日米関係は重要だが、だからと言って、政治や役人の思いつきで、個人や個別企業が損を受ける必要はない。

「どうせ考えなるなら大きく考えろ。どうせ生きるなら大きく生きろ」。これは、不動産経営者だった時に、トランプ大統領が語った言葉という。トランプ大統領、日米両政府を引き回すほどのプランを、日本のエネルギー業界人が提案できたら面白い。