【電源開発 菅野社長】トリレンマを直視し自社の最適解を探り 求められる役割発揮へ

2025年9月1日

カーボンニュートラルに向けさまざまな要請が突き付けられる中、火力のトランジションでは現実的な手法に狙いを定め、洋上風力への否定的見解は一蹴し真の価値を訴求する構えだ。

そして大間では一日でも早く地元の期待に応えることを目指す。求められる役割を見据え、自社や顧客にとっての最適解を追求する。

【インタビュー:菅野 等/電源開発社長】

かんの・ひとし 1984年筑波大学比較文化学類卒。同年電源開発入社。執行役員経営企画部長、取締役常務執行役員、代表取締役副社長執行役員などを経て、2023年6月から現職。

井関 今年は酷暑の割に予備率には比較的余裕がある印象です。火力の運用面はどうでしょうか。

菅野 昨年同時期に比べて火力の稼働率が相当上がっています。スポット市場はどのエリアもゼロ円のコマが減り、それだけ火力電源が動いており、逆に言えば当社を含む発電事業者がマーケットを見ながら適切に運用しているといえます。

全体の需要が底上げされており、昨年1年間で2%弱増えました。特に今年は6月から暑い日が多く、早い時期から需要が増加しています。需要が大きく予備率が厳しい時期に計画外停止が起こらないよう、火力の定期検査を端境期に偏らせないなど、どの事業者も工夫しているはずです。石炭火力も日常的にフルの出力から最低負荷まで変動させる運用が増えており、ボイラーの金属の熱収縮による影響を予見し、集中的にどこをチェックするべきなのか、精度を高めていかなければなりません。

それでもトラブルは起こり得るので、いざという時はなるべく早く戦列に復帰させることが必須となります。

井関 第1四半期(4~6月)は減収増益でした。

菅野 3月末に松島火力が全て停止し、また今年度は容量市場の単価が大幅に下がるなど、減収要因がいくつかあります。それに対し、再生可能エネルギーでは水力や風力の発電量が増え、火力ではLNGと石炭の価格差が保たれた状況にあるなどの増収要因である程度回復しました。加えて北米ガス火力権益の売却益を計上したことにより、想定をやや上回ったと捉えています。


3E全て達成は至難の業 事業者ごとに判断へ

井関 第7次エネルギー基本計画を踏まえ、分野ごとに具体的な政策の検討が進んでいます。特に注目している点は?

菅野 電力需要の伸びのスピード感が重要です。実際今年度にかけて少し伸び、そしてデータセンター(DC)の需要はこれからが本番との見方があります。他方、政府が掲げるS+3E(安全性+安定供給、経済効率性、環境適合)を三つとも満たすことは相当に難しいです。個々の事業者としては何を優先するのか、ある程度腹をくくる必要があると思います。事業者としての最適解は何か、判断を迫られ、具体的な行動となって現れる日が近いのではないでしょうか。

井関 ワット・ビット連携(電力系統と通信基盤の一体整備)の議論が進む中、日立製作所と社会インフラ事業者向けのAI用DCを共同検討しています。

菅野 印西市(千葉県)や京阪奈(京都府)などの系統接続容量は上限に近づきつつあり、電力供給と通信のインフラが整っている別の地方へのDC設置を目指すという議論が浮上していますね。DCの中でも即応性が求められるものや、AIの学習用などの役割分担があり、あるいは公共インフラではより高度なセキュリティーが求められています。われわれは、学習用かつ公共インフラに近いDCは地方設置が可能だと考え、ビジネスチャンスを狙っています。

当社には電源や通信インフラなどの情報はありますが、AI・需要に関する知見は少なく、具体的なDCのニーズを把握する上でパートナーが必要でした。今回、日本発で最も世界的なプレーヤーである日立製作所との連携に至りました。

井関 そこでも火力は重要な役割を果たすのでしょうか。

菅野 GAFAMなどのビックテックはCO2フリー電力で全て賄うと標榜しています。現実的には火力電源も非化石証書でオフセットし使う場面が出てくるでしょうが、当社としては水力や風力などのカーボンニュートラル(CN)な電気で供給するよう努力します。

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