【コラム/9月26日】地熱発電を考える~開発障碍克服の半世紀から未来に
飯倉 穣/エコノミスト
1、再脚光の動きも
主力の再生可能エネルギーで、期待の洋上風力は、政府執着の賃上げと物価の好循環で建設物価上昇に伴い暗雲が漂っている。その中で昔から開発に苦戦している地熱開発に再び光をあてる努力も継続している。新たな次世代型地熱領域でEGS(高温岩体)、クローズドループ、超臨界地熱等への挑戦も始まる。
報道もあった。「地熱発電立地選ばず 深層部まで掘削 三菱商事など AI需要に対応」(日経25年6月3日)、「新型地熱効果最大46兆円 経産省試算 温泉地以外でも発電」(同7月16日)
地球の中心部は、5,000~6,000度で、火山周辺のマグマだまりは多量の熱を放出し、その周辺に高温の地熱地帯を形成している。そのエネ利用である。日本(火山数111)は、世界火山数の7%に達する火山大国である。 推定地熱資源量は2340万kw(エネ庁資料:環境省推計150℃以上2400万kwに相当)と大型火力20基分である。その分布は、国立・国定公園内1840万kw(特別保護地区700万、特別地域1030万、普通地域110万で計78%)、公園外500万kwである。
地球環境・エネ供給面でみて、地熱は、再生可能エネルギー、安定的な発電特性、クリーンエネルギー、純国産エネルギーで、また実績もあり、ほぼ非の打ちどころがない。
ところが、我が国の地熱発電規模は、米国370万kwに対し、未だ50万KWにとどまっている。今後の地熱発電の展開を考える。
2、オイルショック後とFIT創設後に開発拡大
国内地熱発電開発は、1966年松川発電所2.2万kw(日本重化学工業)を嚆矢とし、翌年大岳発電所(九州電力)が続いた。72年環境庁の意向で国立・国定公園内6カ所(大沼、松川、鬼首、八丁原、大岳、滝の上)に開発制限の協定締結となった。その地点も含めてオイルショック後、八丁原、葛根田、森等13か所の開発・運開があり、48.7万kw(96年)となった。
95年以降は、バブル崩壊・経済情勢・経済環境の変化で、開発主体も、企業合理化に追われ、国のエネ政策も自由化一辺倒だった。地球環境問題もありながら、地熱への関心は、資源の賦存が自然公園内、事業リスク等もあり低下した。冬の時代と呼ばれる。ただNEDO地熱開発促進調査(80~09年)は、地道に継続した(67カ所実施)。
2009年政権交代、再エネ重視(FIT導入公約)で、2011年東日本大震災時にFIT制度創設があった。同制度は、地熱発電で1.5万kw未満40円/kwh、1.5万kw以上26円/kwhの固定買取を設定した(12年)。地熱発電開発も、新たな時代となった。
この効果もあり15年間で15地点13.4万kw(千kw以上)の開発があった。松尾八幡平、山葵沢、安比地熱発電等である。現在千kw以上の地熱発電は、25カ所49.5万kw(24年4月)である。このほか千kw未満開発は、69カ所0.84万kw(22年現在)だった。大分県49カ所、熊本県6カ所、岐阜県4カ所等である。69カ所の小規模発電地点が、より大きな発電所建設が可能であったか定かでない。NEDO地熱開発促進調査の寄与があった。
今後の開発はどうか。大型で、はこだて恵山、木地山、松川地熱更新、かたつむり山等6.8万kwが開発中で、他に掘削調査中18地点、地表調査中15地点がある。その開発時期と規模は、鮮明でない。
3、開発目標と今後の開発~資源量は豊富だが
第7次エネルギー基本計画は、地熱で40年度発電電力量見込み(1.1~1.2兆Kwh)の1~2%を供給目標としている(22年度実績1兆Kwhの0.3%)。電源規模は、150~300万kw(現在50万kw)となる。目標実現は、前述のプロジェクトや今後の調査如何である。
このため経産省・JOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)は、従来の地熱資源ポテンシャル調査支援に加えて、新規開発地域でJOGMECが自ら探査・掘削(噴気試験含む。)し、情報提供する体制を整えた。
さらに地熱の開発可能資源量拡大も打ち出した。従来型地熱資源(浅部熱水系地下数100~2000m地熱貯留槽)に加えて、高温岩体(地下6000m内350℃程度の資源量66百万KWと超臨界地熱発電400~600℃で11百万kw)の利用技術開発を目指す。次世代型地熱推進官民協議会は、技術開発のロードマップの作成を議論している(エネ庁25年7月15日)。EGS(水圧入・人工造成蒸気発電)、クローズドループ(高温地熱層の流体循環発電)、超臨界地熱(マグマ上部超臨界水利用発電)等の実現(2040年)を目指す。
高温岩体利用は、サンシャイン計画以降、半世紀に及ぶ試行錯誤を継続している。「九重山2100年噴火予測と噴火回避」(江原幸雄著)は、DCHE(坑井内同軸熱交換)方式のマグマ冷却の未来を描く。人類の夢であり、地下資源の理解の難しさの克服が課題である。