【コラム/9月24日】“夏は一休み”とは言えない制度設計の進展
加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長
猛暑続きの夏も、ようやく落ち着きを見せ始め、仕事からの帰路では、セミの声が秋の虫の声に変わりつつある。電力需給は、7月以降、計7回の需給改善指示のための融通、計1回の作業停止計画調整の要請があるなど、対応が講じられる場面もあった。
電気事業をはじめとする国の審議会は、エネルギー基本計画などの大きな政策の議論が進んでいた昨年度と比べて開催件数は少なく、例年通りであったが、各分野の議論は粛々と進められている。今回は、この夏に動きを見せた制度設計について簡単に振り返りたい。
GX2040ビジョンの具体化は排出量取引制度と産業立地から
今年2月に閣議決定された「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」では、不確実性が高まる中で、目指すべき産業構造や成長のためにエネルギー政策と一体となり、エネルギー安定供給確保・経済成長・脱炭素の同時実現を目指すとして、①産業構造の転換、②新たな産業立地の選定、③現実的なトランジションの重要性と世界の脱炭素化への貢献、④GXを加速させるための個別分野の取組、⑤成長志向型カーボンプライシング構想、⑥公正な移行、⑦GXに関する政策の実行状況の進捗と見直し――、という7つの施策の方向性が示された。
これを受け、今年5月には改正GX推進法が可決されたが、その中でメインとなる施策が来年度から本格運用する排出量取引制度である。CO2の直接排出量が直近3年度平均で10万t以上の企業を対象に排出枠の無償割当を行うもので、成長志向型カーボンプライシング構想のトップバッターを切って始まる施策である。この後、28年度からの化石燃料賦課金、33年度を目途に予定している発電事業者への有償オークションへとつながっていくことから、その制度設計は産業への影響や過度な負担を強いない範囲で低・脱炭素化を円滑に促す仕組みにしなければならない。
26年4月の法施行まで残された時間も多くないことから、早速、7月から小委員会を設置し、制度運用に必要な項目の検討が始まっている。特に、エネルギー多消費でCO2排出量が多い鉄鋼や化学、セメント、紙パルプなどの製造業、火力発電を有する発電事業、日々の移動や物流に欠かせない運輸については、排出枠の割当量の設定が難しいことから、それぞれワーキンググループを設置し、業界団体や事業者の声を聞きながら具体的な割当をする際のベンチマーク水準や割当量の算定式の検討が着手されている。
産業や電気事業に影響を与え得る施策の割には、かなりタイトなスケジュールで検討事項を決定していなかければならず、拙速な議論とならないよう、また実務から離れた学術的な議論に陥り過ぎないような留意が必要だろう。特に電気事業という点では、発電事業者にどの程度の負荷がかかるかは着目する点だろう。割当量を超えれば排出枠を購入する必要があり、そのコストは、容量拠出金やその他卸電力取引(相対取引含む)に転嫁される可能性は十分にあり得る。逆に割当量を下回って排出枠を売却できれば、その分、卸単価への反映ができることから、小売電気事業者にとっては、このカーボンプライシングを踏まえた調達戦略を考えていく必要がある。
もう一つ、検討が進んでいるGX施策は、GX産業立地である。戦後の日本の経済成長を支えてきたのは、各地にできたコンビナート群や工業団地に、電力・通信・水道・道路・鉄道・港湾といった産業インフラを整備し、内需・外需を獲得してきたことにある。こうした場で生まれた産業の中には、アジアをはじめとした海外諸国への移転や、事業自体が衰退したものもあり、元気があるとは言い難い。そこで新たな産業を呼び込むとして、GX産業立地構想が出てきた。GX実行会議の下に、専門のワーキンググループを設置し、4月以降、計4回の議論を経て、戦略の全体像と具体的な立地の選定要件が整理された。