【コラム/10月17日】エネルギー転換実現のための課題
矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー
パリ協定の気候目標を達成するためには、今後四半世紀の間に化石燃料によるエネルギー供給を再生可能エネルギーなどへと大きく切り替えていくことが求められる。こうした転換を実現するには、どのような課題に取り組むべきかが問われている。本コラムでは、将来のエネルギー供給システムのあり方(集中的・分散的要素)を考察した、ドイツ国立科学アカデミー・レオポルディーナなどによる論文(2020)に基づき、この問題を考察してみたい。
同論文において、エネルギー転換実現のために対応すべき主要な事項として指摘されているのは、次の通りである。
・より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない。
・分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件。
・規制を合理化し、CO2価格を誘導手段(guiding instrument)とすることが効率的なエネル
ギー転換達成の鍵。
・ネットワークの安定性に貢献する再生可能エネルギー発電の拡大・運用が求められる。
・エネルギー転換の実現のためには、住民の主体的な関与が重要。
以下、個別に詳しく考察したい。
より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない
エネルギー転換実現のためには、再生可能エネルギー電源を大幅に拡大する必要がある。分散型エネルギーシステムの支持者の中には、同電源の拡大により分散化が進展し送配電網の拡大が不要になると主張する者もいるが、様々な研究によると、エネルギー転換を成功させるためには、送電網と配電網の両方を大幅に拡大することが避けられない。送電網は、再生可能エネルギー電源の大量導入によって必要となるフレキシビリティを全国レベルで(また、ドイツでは輸入により)確保する観点から重要な役割を担う(2025年6月13日掲載のコラムを参照のこと)。
また、現在のエネルギー転換に関する議論では、送電網が中心となっており、配電網はあまり注目されていない。しかし、配電網は系統の大部分を占めており、過去10年間で配電網の運用者に求められる役割は大きく増加しており、今後もさらに拡大していくことが予想される。これは、再生可能エネルギー電源の大幅な拡大に伴い、配電網における需給調整の重要性が高まっていくことに加え、セクターカップリングにより、需要が大きく増大していくためである。配電網の新たな課題に対応するための技術的アプローチは、配電網の拡張のほか消費者が所有するフレキシビリティ(電気自動車やヒートポンプなど)の制御などである。
分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件
再生可能エネルギー電源の大量導入により、需給調整の重要性は増す。従来は、発電設備から提供されていたフレキシビリティは、分散化が進展していく中で、蓄熱設備、蓄電設備、電気自動車、充電設備などによっても提供され、これら設備間の調整が課題となる。より集中化したシステムでも、より分散化したシステムでも、システムの構成要素の調整は、大きな技術的課題の一つだが、集中型のシステムよりも分散型のシステムの方が、より多様かつ多数の機器およびアクターの調整が求められ、より複雑な作業となるだろう。
そのため、一層のデジタル化や自動化が不可欠な条件となる。人工知能や自律・自己学習型の技術は、非常に複雑なシステムを技術的に制御する上で大きな可能性を秘めている。しかし、デジタル化されたエネルギーシステムにはリスクもある。設備がネットワーク化されればされるほど、サイバー犯罪者による潜在的な攻撃対象となる可能性は高くなる。とくに、設備がインターネットに接続されている場合はなおさらである。そのため、デジタル化されたエネルギーシステムは、外部からの攻撃に対しても耐性を持ち、被害の拡大を防ぐ構造となるよう設計される必要がある。