【コラム/10月17日】エネルギー転換実現のための課題
規制を合理化し、CO2価格を誘導手段とすることが効率的なエネルギー転換達成の鍵
エネルギー転換を達成するためには、エネルギーシステムの抜本的な変革が不可欠であり、それには広範なイノベーションが求められる。そのため、規制は新たな技術・製品・サービスの円滑な開発・導入を妨げるものであってはならない。しかしドイツでは、極めて複雑かつ多数の規制が存在しており、それが新技術や新製品・サービスの展開を阻む要因となっている。このため、規制制度の可能な限りの合理化が強く求められている。また、CO2価格は、効率的に気候目標を達成する誘導手段であることを再認識する必要がある。CO2価格導入下では、最も有利な集中型もしくは分散型の技術は、政治的な決定ではなく、市場のシグナルやコストによって決定される。
エネルギー転換の達成のためには、CO2価格の導入によって、可能な限り費用対効果の高い技術が採用される必要がある。しかし、それだけでは不十分であり、他の政策手段の重要性についても触れておかなくてはならない。例えば、風力発電や送電網の拡大への住民の抵抗は、エネルギー転換実現の上で大きなハードルとなっており、住民合意を促進する政策が求められている。また、生態系への悪影響や環境面での住民の負担は、CO2価格では捉えきれない外部コストであるため、追加的手段を講じることは正当化されるであろう。
ネットワークの安定性に貢献する再生可能エネルギー発電の拡大・運用が求められる
ドイツでは、再生可能エネルギー電源の95%は、配電系統に接続されている。またフレキシビリティを提供する重要な設備も配電系統に接続されている。ネットワークの拡大を抑制するためには、将来的には分散型設備をネットワークの安定性に資するように運用し、地域のネットワークのボトルネックを解消することが求められる。配電事業者には、そのようなフレキシビリティを市場参加者が提供できるプラットフォームの運営という新たな役割が求められるようになると考えられる(混雑管理のためのローカルフレキシビリティ市場の創設)。
また、ノーダル・プライスが導入されれば、価格シグナルにネットワークのボトルネックが考慮されることになる。これにより、分散型設備にネットワークの安定性に資する運用と立地に対するインセンティブを与えることができ、混雑するネットワークへの接続は減少し、混雑を引き起こしているネットワークの運用の負担は軽減する。
なおドイツでは、現在、陸上風力発電については、立地によって買取価格を変化させる参照収益モデル(Referenzertragsmodell)が採用されているが、これは混雑解消を意図したものではない。再生可能エネルギー電源に対しての報酬モデルは、ネットワークの混雑状況を考慮して報酬を変化させるものにしていく必要がある。また、現在ドイツでは、再生可能エネルギー発電の抑制により失われた収益は、法的な範囲で補償されなくてはならないが、このような規定は、発電設備の立地に誤ったシグナルを与える。このため、抑制されたエネルギー量に対する損失補償を制限することが考えられる。さらに、送電網の拡張が必要な地域では、わが国同様、発電事業者にも送電料金の一部を負担させること(G-Komponente)も考えられる。
さらに、ネットワーク運営に関しては、その料金体系の再構築が求められている点にも触れておく。太陽光発電システムを設置している家庭などの需要家と設置していない需要家との間や、再生可能エネルギー電源の導入量が多い地域と少ない地域との間で、現行のネットワーク料金は所得再分配効果がある。そして、このような所得再分配効果がエネルギー転換に対する住民のアクセプタンスを妨げており、その解消が求められている。ネットワークの費用構造は、固定費が大部分で可変費は少ない。
しかし、ネットワーク料金は、主として、費用を可変費として回収するように設計されている。このため、太陽光発電設備を設置している需要家と設置していない需要家とでは、前者は、ネットワークからの買電を避けることができるため、後者の負担において、ネットワーク料金の負担が軽減される。
しかし、両者とも、例えば冬の曇りの日などには、同程度に、ネットワークインフラを利用するという意味で、現在のネットワーク料金制度は、公平(verursachungsgerecht)ではない。そのため、従量料金しか負担していない需要家には、基本料金を課すとか、すでに基本料金が適用されている需要家に対しては、料金全体に占めるその割合を増やすことで、ネットワークのコスト構造をより正確に反映させた料金とすることが必要である。また、需要家の合成最大電力への影響を考慮したネットワーク料金の設定も考えられる。