【コラム/10月30日】今の暮らしと未来の不安を考える~新政権の経済政策は現実直視で

2025年10月30日

飯倉 穣/エコノミスト

1、気懸かりな物価対応と財政状況

自民党総裁選が終了し、アベノミクス踏襲観測で株価の上昇があった。証券界は、積極財政・金融緩和を持ち上げ、高市トレードの言葉が飛び出た。先行きに期待と不安が入り混じる。高市総裁は、「今の暮らしそして未来への不安を、なんとか希望と夢に変えていきたい。」(総務会25年10月7日)と発言した。政治的思惑と駆引きで与党少数自民維新連立内閣が成立した(同21日)。各党・メデイアは、今日の暮らしの不満(不安)として物価高を強調し、その対策を話題とする。

幾つか報道があった。「高市内閣発足、経済政策策定指示」「物価高対策や成長投資表明、 ガソリン旧暫定税率速やかに廃止」(朝日同22日)、「新政権、探る財政拡張」(日経同)、「「サナエノミクス」安倍氏の影響強く 積極財政 日銀利上げ牽制」(朝日同10日)。

今の暮らしと物価状況に対し、政治サイドの物価対策は適切だろうか。円安が継続しているが、日米金融政策の違いに加えて、貿易収支の動向も気に掛る。また未来の不安もある。日本経済に資産価格崩壊や財政破綻の危機は来ないだろうか。現在も「経済あっての財政」の考え方や「経済成長で財政健全化」(骨太の方針25年6月)という語りが続いている。不透明な成長期待だけで財政不安払拭は可能だろうか。

新政権の経済政策は、未だ焦点が定まらないが、今後の展開で必要なことは何だろうか。経済変動、経済成長、経済均衡を念頭に次期政権の課題を考える。


2、今の物価対応に困惑

日本経済は、コロナショックを乗り越え、ウクライナ戦争前後のエネ資源価格上昇に端を発した物価上昇の影響で名目GDPは23年590兆円(前年比5.4%)24年608兆円(前年比3%)に膨張した。他方実質GDP前年比は、23年1.2%増、24年0.1%だった。25年も第1四半期年率0.3%、第2四半期同2.2%と一進一退で推移している。トランプ相互関税(15%)の影響もあり、経済は成長率0~1%の状況が継続している。

輸入物価は、24年2.7%の後、25年に入り横ばい(9月円ベース前月比0.3%、前年比△0.8%)で落ち着いている。企業物価は前年比24年2.4%と低下するも、25年上期3%超から下期2%台(9月2.7%)で、やや下げ止まり感がある。消費者物価は、前年比24年2.7%の後、25年上期3%強が続き、8月2.7%である。直近の企業・消費者物価の動きは、海外エネ資源価格上昇でなく、円安や国内コスト上昇・便乗値上げの影響が大きいようである。輸入物価上昇による海外への所得移転で経済停滞はやむを得ないが、国内要因(物価の影響)なら困惑である。


3、経済専門家から見た物価対策

消費者物価の上昇を受けて、物価対応が問われている。政治レベルでは、選挙対策もあり、消費税引き下げ、給付金交付の話が継続している。適切だろうか。

日経は、物価対策で幾つかの考察(経済教室)を紹介している。例えば、物価水準の財政理論(FTPL)である。政府が将来の財源の裏付けなしに財政支出を行い、中央銀行がその需要拡大に伴うインフレ容認、低金利政策継続となれば、インフレ生起となる。故に給付金や減税は物価押上げとなり対策にならない。物価対策は、日銀の物価コントロール、政府の持続可能な財政運営重視が重要で、インフレには金融政策が基本である(砂川武貴「物価高と財政金融政策下 給付は消費を押し上げない」(日経25年8月26日)。

他の論考もあった。物価安定のマクロ経済の標準的な処方箋は、政府はモノの供給をすぐ増やす手段を有しないので、基本的には需要を抑える政策となる。有効な政策手段は金融政策で、名目利子率の操作で経済全体の需要量を抑制する物価安定策が基本である。財政政策は脆弱な人への対応となろう。全体として財政政策は緊縮的か中立的スタンスが必要である(青木浩介「物価高と財政金融政策上 全体は緊縮で支援の的絞れ」(同8月25日)。

いずれの論考も消費税減税や給付金に懐疑的で、金融政策が基本(引締め)、財政拡大に慎重である。

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