【特集2】水素製造から炭素貯留まで 国産ガス田活用の野心的実証
【INPEX】
過去に天然ガスを生産していた新潟県柏崎市内の鉱区で水素とアンモニアの製造・利用、さらにCO2を回収貯留・利用(CCUS)する、国内では例を見ない脱炭素へ向けた実証が間もなく開始される。
INPEXが6月から東柏崎ガス田平井地区で同実証の試運転を行っている。実証では、平井地区とパイプラインでつながっている同社南長岡ガス田から産出される天然ガスを利用し、年間約700tの水素を製造するほか、排出されるCO2を地下のガス田に埋める計画だ。
主な実証内容は、①ブルー水素の製造と水素発電による電力供給、②新技術を活用したアンモニア製造、③枯渇ガス田向けCO2貯留の可能量の評価・検証、④圧入CO2による炭化水素増進回収効果(EGR)の確認、⑤圧入CO2の監視―の5点だ。
①では3台の水素専焼のガスエンジン(計100kW)をモノジェネとして同社が運用する。発電した電気は、地元の地域新電力「柏崎あい・あーるエナジー」を通じて市内公共施設へ全量供給し、水素発電の地産地消を進める。②では、東京科学大学(旧東京工業大学)発のベンチャー「つばめBHB」の低温・低圧力でアンモニアを効率的に製造する技術を活用する。
今回の水素製造ではユニークなやり方を取り入れている。「一般的な水素製造では水蒸気改質方式が採用されている。ただ外部から熱を加えるため、その排ガスとして余分なCO2が出る。今回の実証では自己熱改質という純酸素を用いるプロセスを適用することで、CO2処理を容易にしている」(加賀野井彰一・常務執行役員)。酸素分のコストは掛かるが、CCSを見据えた全体最適への工夫である。①と②を通じて、年間700tの水素を製造し、600tを発電用に使用。残りの100tでアンモニアを年間500t製造して県内の化学会社に販売する予定だ。
設計や操業のノウハウ蓄積 チェーン全体を評価
次に、③~⑤の実証において、CO2回収にはHiPACT(ハイパクト)と呼ばれるアミン溶液を活用する。一般に用いられるアミン溶液と異なり、高圧でCO2を回収する。これにより、CO2を地下に圧入する際、昇圧分のエネルギーの一部を抑制できる点が特徴で、計画では年間5500tのCO2を地下に圧入する。
今回はCO2圧入用、埋蔵量が少なくなった天然ガスの増進回収(EGR)用、内部の地下構造や貯留CO2をモニタリングする観測用として3つの井戸を掘削した。圧入されたCO2の挙動を把握すべく、しっかりと地下を観測し、細心の注意を払ってCCSを行う。
「製造や利用、貯留に至る一連の実証を、一つの場所で展開することに大きな意義がある。これによってチェーン全体の検証や評価が明確になり、将来の実装に向けて設計や操業に関するノウハウが蓄積される」(加賀野井常務)。低・脱炭素に向けた動きが活発化する中、同実証の行方は耳目を集めそうだ。



