【特集2】静脈を動脈に流すことが重要 生活密着の循環型システム構築

2025年11月3日

インタビュー/津曲貞利・日本ガス社長

〈インタビュアー〉伊藤菜々 電力系YouTuber(電気予報士)

津曲貞利(日本ガス社長)つまがり・さだとし 1980年早稲田大学法学部卒。84年日本ガス入社、常務、専務、副社長を歴任し2008年から現職=写真左。
伊藤菜々 (電気予報士)いとう・なな 1989年生まれ。上智大学経済学部卒。再エネファンドや新電力の立ち上げを経て独立。YouTubeチャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を運営し、電気について正しく分かりやすく発信中。

伊藤 カーボンニュートラル実現に向けたビジョンをお聞かせください。


津曲 まずエネルギー事業者としては、安定供給、保安の確保、安定価格が大前提です。昨今、化石燃料の使用が地球温暖化に与える影響が大きくなり、2050年に向けて対策を行っていくことも同様に大事です。しかしそこだけに焦点を当てて急ぐと、お客さまのニーズとかけ離れたり、高いエネルギー価格を強いたりすることになります。地域の課題解決に向け、生活に密着した取り組みを行うことが、地方のエネルギー事業者として重要だと考えます。

伊藤 下水汚泥、生ゴミによるバイオガス活用に取り組んだきっかけは何でしょうか。


津曲 初めは、大隅地区での畜産糞尿からバイオガスを抽出する実証を行いましたが、糞尿の集荷やバイオガスの配送コストが見合わず、うまくいきませんでした。この経験から生活残さを中心に検討し、自治体の清掃工場や下水処理場でのバイオガス事業の実現を視野に研究を進めることになりました。この時、環境問題に力を入れていた森博幸・鹿児島市長(当時)に構想をお話したところ、市長と担当部局が生活残さのバイオガス活用という循環型の取り組みに深い理解を示してくださいました。市民の生活残さが、同じく市民の使う都市ガスに戻ってくるという分かりやすさが、実現の決め手になったと思います。
 自由化を競争にさらされる不安ではなく、未来志向のチャンスとして捉えています。ガス事業者から総合エネルギーマネジメント事業者へと転身していく将来が見えました。


伊藤 バイオガスの取り組みは計画段階から含めると10年以上の年月がかかっています。

津曲 エネルギー事業はやはり安定供給、安全の確保、経済性が大前提となるため、それを差し置いてまで急ぐものではありません。目の前の課題と、50年を見据えた長期スパンの両軸で事業運営を考えています。

電気・ガスを適材適所で クレジットも有効策

伊藤 発電や熱利用でなく都市ガス原料としてのバイオガス活用は独自の取り組みです。


津曲 ガスは電気よりもスピードとパワーが強く、例えば、コインランドリーの熱源はほぼガスの火力です。生活の利便性も考えて、電気、ガスともに適材適所で使用することが大切です。ガスもカーボンクレジットを活用すべきです。適地でない場所への無理なプラント建設や運送コストも省けますし、適地での地方での取り組みも加速すると思います。

伊藤 鹿児島市との関係を構築する上で何がポイントでしたか。


津曲 エネルギーは生活に密着したもので、生活の課題は行政の課題でもあります。常に行政と連携しながら課題を共有し、先を見ることが大事です。「明珠在掌」という言葉があります。これは「貴重なものは遠くでなく掌の中にある」という意味です。周りの事例をまねするだけではなく自分の地域をよく見て、地産地消で行政課題を解決する取り組みを、地域から世界へ広めていく心意気が大事です。


伊藤 地産地消、循環型の取り組みでは何が大切でしょうか。


津曲 静脈を動脈に流していくことが重要です。ごみや下水処理は廃棄物を処理することが主目的であり、税金で運営されています。本来は処理で終わってしまうところにプラスでバイオガス生産設備を増設することで廃棄物をエネルギー資源として再活用でき、静脈を動脈に返すことができると考えています。