【特集2】CО2分離回収技術開発に注力 LNG未利用冷熱を有効活用
インタビュー/肆矢直司・東邦ガス 常務執行役員「イノベーション推進本部長委嘱」
―まずはカーボンニュートラル(CN)戦略についてお聞かせください。
肆矢 当社では、2025~27年度の中期経営計画の事業戦略の一つに「CNへの使命と責任」を掲げ、e―メタンやバイオガス、水素などのサプライチェーン構築を目指すとともに、CCUS(CO2回収・貯留・利用)やカーボンクレジットなど多様な道筋の確保に取り組んでいます。特に、DACを含むCO2分離回収技術は、カーボンリサイクルのキーテクノロジーと位置付けており、20年頃から開発を進めてきました。
―具体的に、どのような技術開発でしょうか。
肆矢 LNGの未利用冷熱を使ってCO2を安価に回収する技術です。グリーンイノベーション基金事業で取り組んでいる「Cryo-Capture」(クライオキャプチャー)では、LNG冷熱を用いて火力発電所や大規模な工場から発生する燃焼排ガスからCO2を回収します。LNG冷熱がCO2をドライアイス化する際に生じる圧力の低下によって、吸収液からCO2を取り出す仕組みです。
一方、ムーンショット型研究開発事業の一環で取り組んでいる「Cryo-DAC」(クライオダック)は、大気からのCO2回収を想定しています。大気中のCO2濃度は燃焼排ガスの100分の1程度とかなり低いため、Cryo-Captureとは異なる吸収液の開発とともに、規模の異なる回収設備の設計を進めています。

DAC実証機の大型化 消化ガスのCO2利用
―実用化に向け、どのようなスケジュールですか。
肆矢 ムーンショット型研究開発事業が行われている29年度までに、大阪・関西万博での実証試験や現在取り組んでいる名古屋大学での実証試験などの結果を基に、さらに大型の実証機の設計を実施したいと考えています。この大型実証機による評価の結果をもとに、40年以降の社会実装を目指しています。
―メタネーション実証では下水汚泥などの再生利用に取り組んでいます。
肆矢 17年から知多市南部浄化センターで発生する消化ガスを精製してメタン純度を高めたバイオガスを受け入れ、都市ガス原料として利用してきました。メタネーション実証では、消化ガスの精製過程で排出されるオフガス(主にCO2)をパイプラインで当社LNG基地に供給し、e―メタンの原料としての有効活用を図っています。

―実証での成果や課題にはどのようなものが挙げられますか。
肆矢 本実証試験は、国内で初めて、製造したe―メタンを都市ガス原料として利用した取り組みです。小規模ではありますが、e―メタンの本格的な社会実装に向けて大きな一歩を踏み出したと考えています。
また、e―メタンの普及には、低コスト化をはじめ、大規模化した際の高効率化や耐久性の向上を進めていく必要があります。本実証試験で得られる設計・建設・運用段階での経験、知見を最大限に活用して、課題の解決に挑んでいくつもりです。
―将来、実用化した際には、中部圏におけるメタネーション地域連携が期待されます。
肆矢 数年前からアイシン、デンソーと共同で地域CO2循環型e―メタン供給の検討を行っています。両社の工場で排出されるCO2を分離回収した後、当社の都市ガス工場まで運搬し、その後、原料となる水素と合わせてe―メタンを製造し、導管ネットワークを通じて両社工場にe―メタンを供給するモデルです。カーボンがリサイクルされる過程において、トレーサビリティーが明確になることが特徴です。
―24年から水素製造プラントの運用が始まりました。御社はどのような役割を担いますか。
肆矢 水素需要拡大については、豊田通商、大陽日酸と進める名古屋港のCN化に向けたNEDOの調査事業を行っています。さらに、自治体や協業先と連携し、水素の利活用に係る実証や開発などを進め、モビリティ・熱分野の需要創出を目指します。
また、CO2分離回収技術の開発、CCU、CCSの事業性を検討するとともに、これらの技術を水素製造プラントに適用し、水素をブルー化することを検討しています。CCUの具体的技術としては、「あいちカーボンニュートラル戦略会議」の事業化支援を受け、アイシン、大成建設と共同でCO2をコンクリート原料として固定化するプロジェクトを進めています。CCSについては、社会実装に向けて、国内外のプロジェクトへの関与を深め、課題の抽出、解決策の具体化を図っています。

商用FCVの重点地域に 水素の需要創出・獲得へ
―水素ステーションの整備状況はいかがでしょうか。
肆矢 国が燃料電池車(FCV)の商用車の導入目標を掲げ、今年5月、愛知県はその重点地域の一つに採択されました。これを受け、愛知県では独自に30年7000台の目標を掲げています。さらに、FCV商用車やFCV商用車対応の水素ステーションへの支援が拡充されるなど、水素需要拡大への環境が整ってきています。当社としても今後、愛知県などの自治体や自動車メーカーと連携し、水素需要の創出・獲得に取り組んでいきます。
―最後に技術開発における今後の展望をお聞かせください。
肆矢 日本のみならず、アジアにおけるCN実現に向けた道筋づくりに貢献するため、あらゆる技術開発の可能性を模索していきます。全てはお客さま起点で、お客さまに喜ばれることを考え抜き、持続可能な社会に貢献していきたいです。

よつや・ただし 1990年早大大学院理工学研究科修了、東邦ガス入社。産業エネルギー営業部長、執行役員としてCSR環境部長や東京支社長などを務め、2025年から現職。東邦ガス情報システム社長を兼任。


