【特集2】独自の「共電解反応」を採用 一気通貫でe-メタンを製造

2025年11月3日

インタビュー/夏秋英治(大阪ガス 執行役員 事業創造本部長)

―メタネーション開発の現状についてお聞かせください。


夏秋 都市ガスのカーボンニュートラル化に資する本命はe―メタンであり、この製造技術として当社が注力するのが、SOEC(固体酸化物形電解セル)メタネーションです。現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業、CO2等を用いた燃料製造技術開発プロジェクト」の下、当社の先端技術研究所が中心となり技術開発を進めています。


―SOECメタネーションの水(H2O)とCO2から一気通貫でのe―メタン製造は技術的障壁が高いように感じます。


夏秋 メタネーションは、電解反応と合成反応の2段階で構成されます。当社のSOECメタネーションでは電解反応において、独自の「共電解反応」によりCO2とH2Oを同時に反応させ、H2とCOに分解します。
 合成反応では、電解反応で作ったH2とCOを反応させて、e―メタンを製造します。このプロセスは高温で熱が発生します。前段の共電解反応では700~800℃の熱が必要になるため、この合成反応の排熱を利用することで、システム全体で、高いエネルギー効率を実現できると考えています。

ベンチスケールのSOEC電解装置


―SOEC電解装置の構造について教えて下さい。


夏秋 電解装置は、電解セルを重ねて積み上げたスタックを一つのコンポーネントとして組み合わせてモジュールを作り上げます。当社は、このセルに独自の金属支持型を採用しており、丈夫な金属を基板にして、表面を薄いセラミックス層で覆った構造になっています。これにより、従来のセラミックス型と比較して高価なセラミックスの使用量を削減できます。耐衝撃性にも優れ、スケールアップの実現も容易になると考えています。

            金属支持型のSOECセル

ベンチスケールで試験中 エネ変換効率向上を目指す

―本開発事業には東芝エネルギーシステムズ(ESS)と産業総合技術研究所などが参画しています。


夏秋 東芝ESSの役割の一つは、セラミックス型高温電解セルスタックの開発。もう一つが、高温電解装置の開発および製作です。当社と知見を持ち寄って、共同で進めていきます。
 産総研はセルの性能や耐久性における要素技術の研究を担当しています。すぐに生かせる部分と長期的に生かせる部分での技術確立を目指します。
 当社のSOECメタネーションでは、エネルギー変換効率85~90%を目標に掲げています。従来技術であるサバティエメタネーションの効率55~60%をさらに上回ることを目指します。

―今年6月に完成したSOECメタネーションのベンチスケール試験施設での取り組みについて教えてください。


夏秋 ベンチスケールは1時間当たり10㎥程度のe―メタンを製造します。SOEC水蒸気電解装置と独自の触媒を充塡したメタン合成装置を組み合わせて、装置の性能確認を行うとともに、プロセス全体の運転データの取得を行い、高いエネルギー変換効率を達成するための検証を進めます。その後、さらなる高効率化に向けて、開発を進めるSOEC共電解装置を新たに設置し、試験を行う計画です。この結果を見ながら、パイロットスケールの設計に同時並行で取り組んでいく予定です。


―一方で、INPEXとサバティエ方式のプロジェクトに参画しています。

夏秋 サバティエ方式は既存の技術ですが、大型化した時にどの程度の効率や耐久性、安定稼働を確保できるのかなど、実用化に向けた課題が残っています。これらを検証するため、プロジェクトに参画しました。INPEXの長岡鉱場越路原プラントに接続する形で実証プラントを建設し、今年度中に稼働を開始する計画です。このプロジェクトは今後、SOECを実用化する上でも参考になってきます。


―下水処理場の汚泥を活用したバイオメタネーションについてお聞かせください。

夏秋 海老江下水処理場(大阪市此花区)で、下水汚泥から発生するバイオガス中のCO2にH2を反応させ、より多くのメタンを発生させる実証を行っています。下水汚泥からメタン発酵で発生するバイオガスは60%がメタン、残りはCO2で構成されています。バイオメタネーションを通じてCO2からe―メタンを製造することで、メタン濃度を85%程度まで引き上げることができます。

バイオメタネーションの試験装置


―御社では30年度に供給する都市ガスの1%をe―メタンにする目標を掲げています。達成に向けた課題は何でしょうか。


夏秋 H2を作るための再生可能エネルギーのコストが安く、CO2が大量にある適地を見つける必要があります。また当初のe―メタン製造にはサバティエ方式を採用し、本格化する段階では、SOECメタネーションに切り替えるのが望ましいと考えています。

セル装置化が今後のテーマ 耐久性などの確認を実施

―最後に、今後の展望や意気込みをお願いします。


夏秋 SOECメタネーションにおいては、これまでセルの開発を中心に行ってきました。今後は、このセルをどのように積み上げていくか、さらにその構造体をどのように装置化していくかなどが開発テーマになります。一方で、耐久性や性能が落ちないことも確認していく必要があります。また、インフレでコストが高騰している。こういったことも念頭に置きながら、技術開発を検証していかなければなりません。ただし、安心安全、安定稼働が前提になります。このバランスをしっかり見ながら進めていきたいと思います。

夏秋英治(大阪ガス 執行役員 事業創造本部長)
なつあき・えいじ 1992年京都大学大学院工学部工業化学科修士課程修了、同年入社。資源・海外事業部海外事業開発部長、イノベーション本部長を経て、2024年4月から現職。