【特集2】熱の有効活用で性能を向上 エネ変換効率75%以上を達成
インタビュー/吉崎浩司・東京ガス 水素・カーボンマネジメント技術戦略部長
―新たな都市ガスとするべくe―メタン開発に注力しています。現状を教えてください。
吉崎 横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)で、固体高分子形水電解装置によって製造した水素と、横浜市資源循環局鶴見工場の排ガスから分離・回収したCO2を原料として、e―メタンを製造する実証を行っています。水素製造には、主に敷地内に設置した太陽光発電の電気を使用しています。導入している水電解装置は2MW級あり、安定した水素供給を実現しています。
2022年3月の開所以降、e―メタン製造設備は順調に稼働しており、24年7月には、国内初のクリーンガス証書制度における「クリーンガス製造設備」として認定を受けました。
今後は「ハイブリッドサバティエ」や「PEM CO2還元」など、革新的メタネーション技術を含む最新技術の実証拠点として、同ステーションを活用していく予定です。

―次世代メタネーション技術開発の進捗はいかがですか。
吉崎 当社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業」の助成を受け、ハイブリッドサバティエなど革新的メタネーション技術の開発に取り組んでいます。ハイブリッドサバティエは、サバティエ反応によって生じた熱を水電解に有効活用し、システム全体の効率向上を目指す技術です。触媒などの要素技術開発やデバイス構造の最適化を経て、24年度にはグリーンイノベーション基金事業のステージゲート目標であるエネルギー変換効率75%以上を達成しました。
現在は、スケールアップや耐久性向上などを目指し、システム全体の性能改善や運転条件の最適化を進めています。PEM CO2還元は、水とCO2からメタンを1段階で直接合成し、効率の向上を目指す技術です。現在、メタン生成に必要な中間体の反応の選択性を高める触媒を開発しています。これにより、24年度にはエネルギー変換効率62%以上というステージゲート目標を達成しました。
e―メタンをオンサイトで 顧客ニーズで設備提供へ
―ハイブリッドサバティエに関しては、事業所内にプラントを稼働させるだけでなく、需要家での利用なども想定しているのでしょうか。
吉崎 グリーンイノベーション基金事業が完了する30年以降の速やかな社会実装を計画しており、お客さまの敷地内での利用も想定しています。技術開発の進捗に加え、お客さまのニーズやカーボンニュートラルに関わる社会情勢・事業環境などを総合的に考慮し、必要に応じてスケジュールの前倒しも検討していきます。今後は、メタン生成量や耐久性のさらなる向上を目指して、デバイス構造の改良などに取り組んでいきます。
―固体高分子形水電解装置の基幹部品として触媒層付き電解質膜(CCM)の量産について教えてください。
吉崎 低コスト化に向けた技術開発が順調に進んでいます。触媒に使用するレアメタルのイリジウムの使用量を従来の4分の1まで削減することに成功しました。また、海外の固体高分子形水電解装置メーカーから要望の多い、高圧条件下での水素製造への対応も進めています。量産化に向けては、事業パートナーのSCREENホールディングスが25年2月に新たな生産設備を竣工し、年産2GWの水電解CCMを生産できる体制の準備を進めています。

―CCU(CO2分離回収・利用)も注目が集まっています。具体的にどのような技術に取り組んでいるのでしょうか。
吉崎 横浜市からの排ガスを分離・回収したCO2を原料にe―メタンを製造しており、地域でのCCU推進を実証しています。大気中のCO2を直接回収するDACや、貯留を組み合わせたDACCS、CO2貯留効率を高めるCCS技術開発にも取り組んでいます。
―30年以降、こうした次世代エネルギー技術を組み込んでいく中で、今後の都市ガス・電力供給はゼロエミッション化していくのでしょうか。
吉崎 都市ガス分野ではe―メタンやRNG(再生可能天然ガス)、電力分野では再生可能エネルギーを主軸として、CNの実現を目指しています。ただし、これらに限定せず、S+3E(安全性・安定供給・経済効率性・環境適合)のバランスを重視し、柔軟に新たなオプションを社会実装していくことが重要です。
DACCSやBECCSなどのネガティブエミッション技術や、CCS・水素の活用も含め、複数のオプションを並行して追求していきます。
新技術を積極的に取り込む 米ベンチャーと連携を推進
―50年に向けて、注目する次世代技術はありますか。
吉崎 米国シリコンバレーに設立したコーポレートベンチャーキャピタル「アカリオ」を起点に新技術の探索やスタートアップ連携を進め、国内でも多様なオープンイノベーションを推進することで、次世代技術の積極的な取り込みを図っていきます。

よしざき・こうじ 1994年東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻修士課程修了、同年入社。工学博士。海外事業推進部長、再生可能エネルギー事業部長などを経て、2025年4月から現職。


