【特集2】巨大な発酵槽が圧巻 バイオガス製造拠点に潜入
JR鹿児島中央駅から高速道路を使って車で南へ30分ほど。錦江湾を臨む工業地帯の一角に、鹿児島市のバイオガス製造拠点となっている「南部清掃工場」がある。同工場では市内の家庭から回収した紙ごみや生ごみをバイオガス化し、導管を通じて500m離れた日本ガスの鹿児島工場に送る。その後、日本ガスが、これを都市ガス原料の一部として活用し、地域に再供給する。まさに、地産地消のエネルギー循環システムの中核と呼べる場所だ。
工場稼働前に発酵槽を整備 メタン生成菌がごみを分解
清掃工場の敷地に足を踏み入れると、まず目を引くのが2基の巨大な円柱形の「発酵槽」だ。1日の処理能力は計約60t。外から中の様子を見ることはできないが、投入されたごみは、全長約40mの槽内を16日間かけてゆっくりと通過していくとのこと。発酵に適した55℃に保たれた槽内には、工場稼働に先立つこと4年前に「メタン生成菌」と呼ばれる微生物が入れられ、これが、ごみを分解しガスを発生させる役割を担っている。

南部清掃工場に運び込まれる可燃ごみの中には、ビニール袋やプラスチック類など、メタン菌が分解できないものが混ざっている。これらが発酵槽に入ってしまうと、肝心の生ごみ・紙ごみの投入量が減り、60tという処理枠を圧迫してしまう。これを防ぐためには、発酵槽に投入する前の分別作業が重要だ。
この鍵を握るのが、ドラム型の選別機。高速回転するブレードハンマーでごみを粗く破砕すると、生ごみや紙ごみはさらに細かくなりドラム底部の穴を通る。プラスチックごみなどは細かくならず穴を通らないため、確実に除去できるという仕組みだ。この工程を経ることで、発酵槽には効率よく有機物中心のごみを送り込むことができる。
発酵槽から取り出されるメタンガスの純度は55%程度。当然、このままでは都市ガス用には適さない。発酵槽のすぐ横に設置された「バイオガス精製設備」で、アンモニアや硫化水素、CO2といった不純物を取り除くことで純度95%まで高め、ようやく日本ガスの工場へ。燃料ガスと混ぜ、付臭や熱量調整を経て、地域のエネルギーとして再び市民の元へと「還って」いく。

日本ガスは、都市ガスの品質を維持するため、メタンの純度が95%を下回るなどの支障が生じた際には、受け入れを遮断する仕組みを講じている。また、薄まるとはいえ、受け入れるバイオガスの基準については慎重に検討した。試験的にガス機器の中で最も影響を受けるであろうエネファームを、バイオガス100%で1年間運転させた際も、何も問題がないことを確認できたとのことだ。
清掃工場は30~40年ごとに建て替えが行われ、現行施設の運用開始は2022年1月と比較的新しい。この建て替え計画の際、日本ガス側から「生ごみなどを地産地消のエネルギーとして都市ガス原料に利用できないか」と、森博幸市長(当時)に働きかけたことがきっかけとなり、バイオガス化設備の導入が決まった。
発電用途の議論に待った 循環型社会の実現を重視
それまでも、市町村や民間事業者の工場などでメタン化設備を導入する事例は多くあった。だが、いずれもFIT(固定価格買い取り制度)を用いた売電用の自家発燃料として活用されるのが主流。南部清掃工場におけるバイオガス化計画を巡っても、「発電用途に回し、FITで高く買い取ってもらった方が良い」といった議論が浮上したことがあったという。
そうした中で、地産地消による循環型社会を実現できること、市民の環境意識を分かりやすく啓発できることが、そうした意見をはねのける決め手となった。実際、今年4月には、市立の小学校全42校にこのバイオガスを活用した再生可能エネルギー100%の「カーボンオフセット都市ガス」の供給が開始された。ごみの削減や低・脱炭素化といった小学生の環境意識の醸成に一役買っている。
南部清掃工場から供給されるバイオガスの年間供給量は最大で150万㎥。これは、日本ガスの年間ガス販売量の1・5%程度に相当する。津曲貞利社長は、「全体から見れば1・5%に過ぎないかもしれないが、民生用販売量の6%が地産地消のエネルギーで賄われている」と自負する。その上で、「50年をターゲットに、市民生活を支える2500万㎥のエネルギーを全て、地産地消で賄えるようにしたい」と、さらなる高みへ意欲を見せる。


