【沖縄電力 本永社長】事業環境変化を好機に 新たな価値生む企業へ変革していく
火力の脱炭素化へ 水素社会の到来見据える
井関 GW2050における沖縄電力の役割をどのように考えていますか。
本永 プロジェクトのコンセプトには、「カーボンニュートラル(CN)の実現」が掲げられています。その実現にはCN電力の確保が不可欠であり、これこそが当社が担うべき役割です。「スマートシティ」の形成が進めば、離島で培ったマイクログリッド技術を生かすことも可能になるでしょう。当社グループはエネルギー供給の面からプロジェクトを下支えしていきます。
井関 そのためには、火力電源の脱炭素化も欠かせません。
本永 当社の電源構成は火力発電の比率が高いのが特徴です。CN実現に向けては、将来的にアンモニアや水素といった脱炭素燃料の活用が不可欠となります。老朽化した火力設備をリプレースする際には、水素などの脱炭素燃料の混焼に対応可能なガスタービンを導入するなど、水素社会の到来を見据えた準備を進めていきます。

井関 SMR(小型モジュール炉)など革新的な技術についても関心はありますか。
本永 SMRに限る必要はなくて、今まさに研究が進められている水素・アンモニア混焼に加え、次世代地熱、海洋エネルギー発電といった革新的な脱炭素技術についても注目しています。50年のCN達成を見据える上で、どのような技術が沖縄に適しているかという視点で、幅広い選択肢をフォローしておくことは不可欠だと考えています。
井関 車社会の沖縄ですが、EV化は進んでいますか。
本永 現状では、それほど進んでいません。充電ステーションなどのインフラ整備がまだ十分でないことに加えて、沖縄は厳しい暑さが続くため、エアコン使用によるバッテリー消費や性能低下への懸念が払拭されていないのが大きな要因と考えられます。GW2050の枠組みでは、再開発地域をEVや自動運転車が走行するエリアとする構想も検討されています。
井関 1月に発足した「おきでんPXプロジェクト」の狙いについて教えてください。
本永 第一義的な目的は調達価格の適正化です。昨年度は、県内の電力需要は前年度から大きく伸びた一方で、円安や物価高、労務単価の上昇といった外部環境の変化が経営に影響を及ぼし、単体の利益は当初見込みの50億円を下回る40億円にとどまりました。PXの「P」には、調達(Procurement)のほか、利益(Profit)、生産性(Productivity)、成果(Performance)などの意味を込め、全社的な変革プロジェクトとしての位置付けです。社員一人ひとりが従来の常識にとらわれず、さらなる成果を追求する姿勢を目指していきます。既に予想以上の効果が表れ始めており、これを一過性に終わらせず継続していくことに意味があります。次世代へと継承し新たな価値を生み続ける企業へと変革していきたいと考えています。
若手確保に意欲 既存社員にも刺激を
井関 人材確保策については。
本永 人材の流出や若手不足の傾向が見られることから今年度、中途採用を開始しました。これは既存社員にとっても良い刺激になると思います。また、23年11月に策定した「人財戦略」に基づき、新規プロジェクトや各部門での新たな取り組みへのチャレンジとして自発的な異動を可能にする公募制の導入により、若手社員のモチベーション向上を図っています。こうした仕組みにより、組織横断的なプロジェクトが増えています。
井関 海外でのエネルギー事業に関する取り組み状況について教えてください。
本永 これまで大洋州地域でコンサルティング業務を手掛けてきました。昨年からパラオでリゾートホテルに太陽光発電設備と蓄電池を導入し、当社の事業モデルで再エネを安定的に供給する事業を開始しました。これをモデルケースにパラオ全体に広げたいと考えています。波照間島での実証事業で培ったノウハウも生かしていきたいですね。大洋州地域には沖縄の離島と同規模の島国が複数あり、エネルギー問題を含め同様の課題を抱えているケースが少なくありません。そうした課題に応えられることが当社グループの強みであり、離島で培った技術やノウハウを同じような環境にある国々へも展開していきます。
井関 目覚ましい成長のポテンシャルには期待が高まります。本日はありがとうございました。
対談を終えて
話題のテーマパーク「ジャングリア」が開業し、米軍基地返還予定地などを再開発する大規模事業「GW2050」が進む沖縄県。人口減少局面に入ったとはいえ、地域経済活性化の取り組みが盛り上がりを見せる中、エネルギーの安定供給を担う沖縄電力の役割は一段と重要性を増している。本永社長の肝いりで発足した「PXプロジェクト」も本格化。全社員が自ら工夫して仕事のやり方を変える「超・攻めの効率化」で、全社的な変革を目指す。次世代への新たな価値を生み出せるか。(聞き手・井関晶)


