【西部ガスホールディングス 加藤社長】グループ各社が自律し、価値観を共有しながら健全な成長を目指す
資本コスト経営に転換 事業を通じ環境貢献も
井関 新グループ中計では、ROIC(投下資本利益率)を重視する経営への転換を打ち出しました。
加藤 これまで当社は、安定配当による株主還元に力を入れてきました。しかし、これではなかなか株価に反映されにくい。投資家は、投下資本に対するリターンを生み出す能力を評価しているということで、資本コスト経営を進めていくことにしました。また、サステナビリティ経営にも力を入れています。これは、環境貢献を事業で実現するということです。LNGタンクを増設し、燃転需要に一層対応することで石炭からの燃料転換によりCO2排出量を約40%削除でき、低炭素化が図れます。現在、ひびきLNG基地内にCO2と水素を原料にe―メタンを製造する実証設備を作り、そこで製造したe―メタンを既存のガス導管に注入しています。将来的には、天然ガスから環境に優しいe―メタンに置き換えていくことが脱炭素化シナリオの基本です。そのために足元ではLNGのさらなる可能性を提供できるよう計画を進めているところです。

井関 ひびきLNG基地の3号タンクの増設決定は、今でこそ追い風が吹いていますが、投資判断をされた時点では、思い切った決断だったのではないでしょうか。
加藤 3年近くかけてさまざまな収支シミュレーションを実施し議論してきましたから、当初から座礁資産化しないという確信を持っていました。そこに2月に策定された第7次エネルギー基本計画で、天然ガスは2050年のカーボンニュートラル(CN)実現後も重要なエネルギー源であることが明記されたことで、さらなる自信になりました。投資決定当時は、「本当にやるのか?」と言われたこともありましたが、今では「ナイスジャッジ」と言われます。計画通りに進めば、LNG事業はグループを支える大きな柱になるでしょう。
井関 国内の地域によっては、燃転は頭打ちと言われます。九州エリアのポテンシャルはいかがですか。
加藤 北部九州を中心に、まだまだ多くの石炭転換需要があります。以前は石炭の方が安く、コスト面で戦えませんでしたが、今は環境貢献の要素が加わったことで、お客さまからの引き合いが増えてきました。例えば、9月には、UBE三菱セメント(MUCC)の九州工場黒崎地区のセメント焼成用キルンの熱エネルギー源として、天然ガスを混焼させる実証試験に成功しています。お客さまも、天然ガスに転換することで「環境貢献を考えている会社だ」とアピールできるとお考えです。
井関 燃転のための専門組織も立ち上げたとか。
加藤 LNGを希望するお客さまの要望に応えるため、専門組織として「LNG燃料転換推進部」を設置し、10人ほどの人員で潜在需要の掘り起こしに取り組んでいます。北部九州エリアでは、約30万~40万tの潜在需要があると見ており、その半分程度を当社が獲得する意気込みでいます。
30年e―メタン商用化 実証で調達手法見極め
井関 e―メタンの実証運転は順調ですか。
加藤 今年6~12月に実証運転を行う計画で、既に製造したe―メタンの導管注入を始めています。これまでは基地周辺から
CO2を調達していましたが、福岡市の下水処理施設から回収する取り組みも進んでおり、非常に順調です。実証を通じて、CO2調達と水素生産の両面でコスト削減を実現するため、「e―メタン製造コスト最適化システム」の開発と、運用・評価といった製造に関する知見も獲得できるほか、海外サプライチェーン調査、革新技術調査などを行う予定です。自社で製造していくのか、場合によっては海外から安いe―メタンを調達するのか、中長期的な視点で腰を据えて見極める必要があります。30年を目途にe―メタンの導入を目指していますが、事業化には値差支援などの国の後押しは欠かせないことも事実です。

井関 事業ポートフォリオマネジメントの高度化を打ち出していますが、既存事業の取捨選択も検討対象ですか。
加藤 都市ガス事業は独占体制の期間が長く、規制に守られていたため、さまざまな事業に手を出していました。当時の判断が間違っているか正しいかということではなく、どうしてもリスク想定が甘くなってしまった事業はあります。私の在任期間中にそうした「負の遺産」は整理した上で、次の世代に引き継ぎたいと考えています。実は、経営のスピードを上げるために「特定課題常務会」を立ち上げました。関係する取締役をメンバーとし、適宜、始業前に招集して、特定の課題を議論するための会議体です。収支状況を明確にしながら、撤退するべき事業を見極めていきます。
例えば、現在のポートフォリオにおいて不動産事業としている海外不動産事業は、商慣習や法律など日本とは大きく違い、かなり苦戦しているのが実情です。それを不動産事業から切り出した上で課題を抽出し、方向性を決める必要があります。その一方で、海外エネルギー事業は、JERAとの提携によってLNGの相互融通により、必要な量を必要なタイミングでタンクに入れられる柔軟な調達を実現するだけではなく、JERAの豊富な知見とひびきLNG基地の立地的優位性の強みを生かし、次世代燃料を含めたグローバルビジネスでの協業が可能になります。このようにさらに収益拡大が見込める分野については、単独の事業としてポートフォリオにきちんと組み込み、資金を投じて強化していきます。


