復興再生利用の取り組みで前進 政府一丸で45年県外最終処分実現へ
【環境省】
インタビュー:小田原 雄一/環境省 環境再生グループ長
福島原発事故に伴い発生した除去土壌の復興再生利用に向けた取り組みが今年一段前進した。
20年後までの福島県外最終処分実現に向け、現在地や今後のポイントを環境省担当幹部に聞いた。
―来年で福島原発事故の発生から15年です。除去土壌を巡る進ちょくをどう評価しますか。
小田原 除染は今も「特定帰還居住区域」で継続し、2020年代をかけて帰還意向のある住民が地域に戻れるよう必要な箇所の除染を進めています。さらにこの1年間ではいくつか動きがありました。法律で定めている45年3月までの福島県外最終処分の実現に向けて、昨年12月に閣僚会議を設立し、今年5月に基本方針を、これをさらに落とし込む形で8月に当面5年間のロードマップを策定しました。

まずは理解醸成が重要 実用途での事例を創出する
小田原 同県での実証や有識者の助言を踏まえ、除去土壌の再生利用の基準として1㎏当たり8000ベクレル以下といった基準を定めました。また、復興再生利用の必要性・安全性についてご理解を深めていただくため、この基準を満たし復興再生利用に用いる除去土壌を「復興再生土」と呼称することを、9月に立ち上げた有識者会議の意見を踏まえ決定しました。そして、7月から先行的に官邸や中央省庁の花壇などで復興再生利用を進めており、10月13日に施工を完了しました。
―今後、霞が関以外の各府省庁の庁舎などでも復興再生利用し、その知見を生かして実用途の先行事例を創出する方針です。
小田原 8月末時点での除去土壌の量は約1400万㎥で、その4分の3が1㎏当たり8000ベクレル以下です。45年までの最終処分実現に向けては、復興再生利用を最大限進めることが鍵となります。
復興再生利用の拡大には、まず理解醸成が重要です。これまで若者向けの講義やワークショップ、また幅広い層に向けたパネルディスカッションなどを適宜開催してきました。加えて官邸・霞が関での利用が新たな一歩につながればと思います。そして今後全国規模で展開する上では、さらにさまざまな課題をクリアする必要があります。
そのためにも必要な先進事例の創出に関しては、公共事業・施設や、安定的な事業継続が見込める民間での土地造成・盛土・埋立てへの利用などを想定しています。どの程度の範囲で、どの程度の量を見込むのかなど、具体方針はこれから検討します。
―30年ごろに、実用途における復興再生利用のめどを立てるとしています。
小田原 例えば、除去土壌全体量のうち、どの事業にどの程度、復興再生利用するかのめどを30年ごろに示したい、といったイメージです。
最終ゴールに向けて 自治体からは道筋求める声
―最終処分の実現に関しては、30年ごろに処分場候補地の選定・調査を始めるとの目標ですが、どんな方針で進めますか。
小田原 これほど大規模な原発事故に伴う除去土壌の処分は世界で例がなく、数多の課題をクリアする必要があります。今後5年間で、まずは最終処分の管理終了の検討、中間貯蔵施設内での土壌取り出し・運搬に関する検討に優先して取り組みます。
その他、最終処分・運搬のために必要な施設、減容技術などの効率化・低コスト化の検討に向けた技術開発、全体処理システムとしての安全・効率的な運用の検討、最終処分場の立地の技術面や社会的受容性に関する検討、地域共生の在り方の検討などを、段階的に丁寧に進めていきます。これらの取り組みを、候補地選定のプロセスの具体化、そして候補地の選定・調査につなげていく考えです。
―これまでに示した最終処分の四つのシナリオを基に、35年めどで処分場の仕様を具体化、候補地を選定するとしています。
小田原 今年3月に環境省が取りまとめた25年度以降の進め方では、減容技術の組み合わせで①減容しない、②分級処理、③分級+熱処理、④分級+熱処理+飛灰洗浄―といったシナリオを提示しています。①から④に向かうほど、最終処分量や必要面積は減少しますが、減容処理コストは逆に上昇していく見込みです。まずは必要な技術的検討を進めた上で、先述の有識者会議で施設整備の在り方や効率性、そして社会的受容性などを踏まえ、検討を重ねます。
―高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定では、原子力発電環境整備機構(NUMO)が調査地点の公募を始めてから23年経ち、決定にはまだ時間がかかる見込みです。一方、除去土壌では時間的な区切りがある点に難しさがあるかと思います。
小田原 政府の取り組みに対して、福島県や県内自治体からは、ロードマップで示した内容を一定の前進としつつも、「45年までの全体工程として、県外最終処分への確実な道筋を示すべきだ」といった声が出ています。こうした意見もしかと受け止めながら、45年までの最終処分実現に向けて引き続き政府一丸となって取り組んでいきます。



