北陸の電力史をたどる新拠点が開設 明治期からの歩みを未来につなぐ

2025年11月10日

【北陸電力】

北陸電力は北陸の電力史を紹介するアーカイブギャラリーを本店ビル1階に開設した。

地域と共に歩んできた先人の姿と、その絆を次世代へ紡いでいく。

富山・石川・福井県敦賀以北を主な供給エリアとする北陸電力は、9電力体制が確立される前、他地域ブロックへの統合が検討され、独立が危ぶまれた時期があった。しかし、地域ぐるみで築いてきた独自の産業や暮らしを守るため、地元が一体となって奮闘し、北陸ブロックの独立性を保ち続けてきた歴史がある。

こうした電気事業の歩みを紹介するPR施設「地域への想い北陸電力アーカイブギャラリー」が10月9日、同社本店ビル(富山市)1階に開設された。同日には経済産業省中部経済産業局の向野陽一郎北陸支局長のほか工事関係者らを招き、オープニングセレモニーを開催。

テープカットを行う松田光司社長(中央)ら
提供:北陸電力

松田光司社長は「当社は戦中・戦後の電力再編の中で地元の後押しを受けて、幾多の危機を乗り越え、他の地域に属することなく北陸の独立性を守り、共に発展してきた経緯がある。この『地域とともに発展する』という理念をわれわれのDNAとして、しっかり紡いでいくこと。さらに、このギャラリーに込めた『地域への想い』を地域の皆さまと共有し、過去・現在・未来をつなげる架け橋になることを期待している」とあいさつした。


明治期からの歩みを紹介 ブロック確立の歴史に注目

同施設開設のきっかけとなったのは、有峰ダム(富山市)の近くに設置されていたPR施設「アーカイブス有峰」が昨年閉館したことだ。同館では有峰水力開発に関する展示を行っていた。その後継のPR施設を模索する中で、アクセスの良い本店ビルでの開設が決まった。

アーカイブギャラリーは本店ビル1階の延べ約300㎡の空間を活用し、有峰水力開発のみならず、明治期に始まる電気事業の変遷から現代のカーボンニュートラルの取り組み、さらには昨年の能登半島地震などの災害対応に至るまで、パネルや展示品などを用いて紹介している。パネルは時系列に並べられており、来訪者は歩みを進めながら、北陸の電気事業が地域と手を取り発展してきた過程を知ることができる。施設の開設を担当した地域共創部の野﨑拓朗地域・エネルギー広報チーム統括課長は「北陸の電気事業の歴史を紹介する施設はこれまでになかった。過去から未来へと続く取り組みを一望できる施設を開設できたことは感慨深い」と力を込める。

電気事業の歩みを時系列順にたどれる
提供:北陸電力

一連の展示の中でも目を引くのが、二度にわたって北陸ブロックの独立を守り抜いた地域の奮闘を伝えるコーナーだ。一度目の危機は、太平洋戦争下の1941年に政府が発表した「配電事業統合要綱」に端を発する。

これは全国を八つのブロックに分け、配電事業を統合する方針を示した計画で、北陸は中部地区に組み込まれる予定だった。当時、北陸の電気事業者は、近代化の進む重化学工業の誘致に取り組み、地域と共に発展してきた経緯があった。こうした北陸の独自性を失わせまいと、日本海電気(旧富山電気)の山田昌作社長(当時)が立ち上がり、北陸の電力圏の独立を政府に訴え続けた経緯を紹介している。

二度目の危機はその直後に訪れる。戦後の49年、電気事業は連合国軍総司令部(GHQ)の主導で再編成されることになり、民営の電力会社を七つのブロックに分割し、北陸を関西に組み込む案が提出されたのだ。これに対し、北陸配電を中心に、政財界を挙げた「七ブロック反対運動」が繰り広げられた。ここでは、北陸ブロックの独立を求めた地元経済界からの陳情書などの実物が並んでいる。地域が一体となって電力圏を守ろうとした熱気が、展示品を通して感じられる。

電源開発の取り組みも見逃せない。北陸電力は電力編成による51年の発足直後から、大規模な水力発電の開発を次々と進めた。戦後に急増した電力需要に対応するためだ。発足から約10年間で新設した水力発電所は20カ所にのぼる。総出力は着実に積み上がり、供給力は発足時の3倍に増強された。

一連の開発の中核を成したのが、60年に完成した「常願寺川有峰発電計画」だ。有峰盆地を利用して重力式コンクリートダムを築き、七つの発電所を整備。計26万7600kWの出力を確保した。総工事資金は約372億円と、当時の同社資本金の7倍を超える規模。展示ブースでは、わずか3カ年でコンクリートの打設を完了した有峰ダムの工事風景の写真が並び、社運を賭けた開発の実態を具体的にたどることができる。地域共創部の佐藤安紗希地域・エネルギー広報チーム副課長は「当時の会社規模では到底考えられない挑戦。今の若手社員にとっても刺激となるだろう」と語る。


終盤には災害復旧の様子も 被災した実物設備を設置

ギャラリーの終盤では、能登半島地震における復旧・復興の様子が伝えられている。被災した碍子や電柱などの実物設備に加え、停電復旧に奔走する社員の姿を収めた写真も並ぶ。アーカイブギャラリーについて野﨑氏は「このギャラリーには、電力マンの使命感と責任感が凝縮されている。地域と共に歩み、安定供給を支え続けてきた北陸電力のDNAを感じてもらえるはずだ」と続ける。

アーカイブギャラリーは本店ビルの営業時間内(平日午前8時40分~午後5時20分)に自由に見学できる。パネルのほか、北陸電力初の石炭専用船「北陸丸」の模型や、時代ごとの作業服なども並び、見どころ満載だ。

地域と共に歩んできた北陸の電気事業。その想いを今に継承する場として、ギャラリーは重要な役割を担う。北陸電力は北陸地域と共に発展してきた先人の姿を伝えるとともに、地域との絆を次世代へつなぐ考えだ。